佐藤郁良『星の呼吸』(角川書店 2012年4月)_杉原

佐藤郁良『星の呼吸』(角川書店)

佐藤郁良『星の呼吸』

佐藤郁良さんは、1968年東京都生れ。
開成高校の国語教師として、「俳句甲子園」への引率をきっかけで俳句を始め、2007年の第一句集『海図』で第39回俳人協会新人賞を受賞。
現在は「銀化」副編集長を務められている。
「俳句甲子園」で開成高校を優勝6回に導いており、開成高校出身の若い俳人達にとって一番最初の師匠と言う立場であろうか。
 この方の句集も先日ご紹介した同じ「銀化」の小池さんと同じく、大変巧み且つ知的な構成で狙いのはっきりした俳句が並んでいるが、佐藤氏の方が下五を「かな」「けり」が多用されていることもあり、比較的平明であると感じることが出来た。
我々の句の詠み方と似ていると感じるところもあるのではないか。
季題の持つ本意を活かそうという傾向を読み取ることが出来る。
鮟鱇の部品となりて送らるる 郁良
→季題は「鮟鱇」。大きな鮟鱇が水揚げされた。それが捌かれ最終的に各部位となって加工場に送られていった。
それを中七で「部品」と突き放すように詠んだことで逆に「哀れ」を表すことに成功した。
赤い羽根つけシースルーエレベーター 郁良
→季題は「赤い羽根」。取り合わせの俳句。
「シースルーエレベーター」という何とも不思議な感覚と、「赤い羽根」を胸に付けているときの若干の違和感の比較が面白い。
その他の印をつけた句を紹介したい。
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砂嘴ひとつ海より生るる初景色
いにしへの雨を見てゐる雛かな
十人でいつぱいになる木下闇
春耕や言葉を探しつつ退る
檻の鷲しづかに我を捕へけり
代田いま星の呼吸をしてをりぬ
花野まで来てばらばらに坐りをり
敷きつめし素焼の欠片小鳥来る
測量船とほき海市へ向かひけり
輪飾の凍てて小さき駅舎かな
書初や未来へ太き右はらひ
花は葉に簡易トイレの残りけり
祭髪父を離れて坐りけり
雑巾のかたく乾いて山眠る
麦秋や赤子は体ぢゆうで泣く
対岸を見てゐる泥鰌鍋
命継ぐやうに手花火寄せ合へり
りんだうや宗谷の沖の紺深し
初夢は遠ざかりゆく船のごと
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以上(杉原記)

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