穴ぐらのごとき入口霜の城 渡邉美保 底冷の廊下の奥に洗面所 漱石の旧居の縁に冬日浴ぶ 凍土に花の名札のたちならび 料亭の雑煮頂く女正月 岩本桂子 麦の芽やキハヨンナナのたらこ色 杉原祐之 寒灸に掌の汗ばんでをり 原 昇平 底冷の急階段を武具の間に 梅岡礼子
雑詠(2019年5月号)
コメントを残す
穴ぐらのごとき入口霜の城 渡邉美保 底冷の廊下の奥に洗面所 漱石の旧居の縁に冬日浴ぶ 凍土に花の名札のたちならび 料亭の雑煮頂く女正月 岩本桂子 麦の芽やキハヨンナナのたらこ色 杉原祐之 寒灸に掌の汗ばんでをり 原 昇平 底冷の急階段を武具の間に 梅岡礼子
かけがへのなき人々 本井英
白菜の畝に居並び首 級めき 紫に紅に下萌えにけり 犬ふぐり拗ね者もなく咲きそろひ 知らぬ人が春一番と言つて過ぐ 池普請途中で抛りだしてあり
この里に幾観世音春時雨 八橋は立ち入り禁止雪残り 春泥を跨がんとする膝と腰 磯原におつかぶされる余寒かな
旧正をかけがへのなき人々と 春の人かな名乗り合ひ笑まひ合ひ 犬ふぐりおほよそ閉ぢて雨近し 離り見て梅林は色やはらかき 雨の糸受け入れてをる古巣かな夏潮新年会 二句
雨が打ちはじめ白梅散りはじめ 雨に濡れてさらに明るし花菜畑 花菜畑咲きむらあるは一樹ゆゑ 名草の芽よろこぶほどの雨注ぐ モノレール出発あたり霞みつつ 福寿草の黄色のどこか緑おび
春を思はしむ 本井英
足裏にひつつく床や寒稽古 ホワイエにダンス部の寒稽古かな 寒稽古へドアをバタンと出て行きし黄鶺鴒の方ががつしりしてをるよ 三十三才低くか黒く川跨ぐ犬山稽古会 八句
鉄橋の吼えては止みて寒の闇 暁の浮寝の陣の黒とのみ 鴨の陣いくつ犬山頭首工 鴨の陣解けと朝日が促すよ 伝令のごと鴨の陣抜け出せる
カンバセ顔にそひてただやう息白し 鴨は鴨鵜は鵜でくらし頭首工白いもの落ちて来さうや明治村 寒ざむと三八銃を展示せる 切山椒の色みな春を思はしむ明治村 二句
くすぐりの少し度が過ぎ初芝居 日脚伸ぶ日々を閑散スキー場 出勤のホステスたちに日脚伸ぶ マフラーに顎をうづめて憎みけり 蛇口ひねれば寒の水棒状に
「梨の花」 石神 主水選 平らかに枝張り広げ梨の花 岩本桂子 納屋よりのラヂオ梨の花に風 そこ〳〵に蜂も飛びゐる梨花の園 藤永貴之 梨咲くや遺骨がはりの石ひとつ 望月公美子 一村は同姓なりし梨の花 鐘居寿子 音楽大学経済大学梨の花 本井英
季題は「枯木立」。すっかり葉を落とした幾幹かの冬木がほつほつと佇んでいる。広々とした公園の一画などを思い浮かべればよい。そんな木立を縫うように進む道。いま作者が立ち止まっている道が、ゆっくりとカーブしながら先へ進んでいる具合が、「枯木立」ごしに見えているのである。何処にでもある、平凡な景色であるが、少し先まで見えている「道」に何となく、人生の「一寸先」を読者は感じてしまう。
この句を作者が詠んだということは、「この景」に作者自身、どこか心が惹かれたからに相異ない。しかし何故心惹かれたか、それは作者自身も気付いておられないかも知れない。「なんとなく心惹かれる景色」といった程度ではなかったか。一方読者である筆者は、同じように心惹かれながら、「人生の一寸先」を感じた。もしかすると作者自身も、ご自身でそれと気付かれぬながらも、「一寸先」への不安や期待を心の中に抱えておられたからこそ、「この景色」に惹かれたのではなかったか。「花鳥諷詠」の根本にあるメカニズムのようなものを、筆者は強く感じた。 (本井 英)