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春の風邪明るき場所で眠るなり  黒田冥柯

 季題は「春の風邪」。ただ「風邪」ならば冬の季題であるが、「春の風邪」というとどこか深刻でないような、そのうち、いつの間にか治ってしまうような印象のものとなる。虚子の作には〈化粧して気分すぐれず春の風邪〉〈病にも色あらば黄や春の風邪〉〈老大事春の風邪などひくまじく〉〈春の風邪重きに非ずやや老いし〉などもあり、おおよそその辺りのニュアンスは伝わるであろう。

 この句で言えば、「明るき場所」に「春の風邪」らしさがある。冬場の本格的な「風邪」ならしっかり薬を飲んで、部屋は暗くして、「ともかく、早く治るために寝る」。ところが「春の風邪」では、どこか日常を引きずったままで「深刻にならずに」横になっているのであろう。季題の捉え方として正しいし、それでいて、どこか気楽な、若者らしい感じも出ている。(本井 英)

雑詠(2019年6月号)

春の風邪明るき場所で眠るなり		黒田冥柯
野火移るそろり〳〵と人もまた
恋猫の隅まで舐(ネブ)る餌の皿
芝焼くや白線のなき駐車場

骨正月金箔の酒酌みつくす		山内繭彦
赤志野に今朝のいちりん白椿		伊藤八千代
梅林の脇にタクシー休憩中		梅岡礼子
憲兵之碑に藪椿赤きこと		児玉和子

主宰近詠(2019年6月号)

分袂といふこと 本井 英

春寒や薄く冷たく猫の耳

福寿草ひらきしぶるといふことも

水たまり広がつてゐる春田かな

春の雨マルチシートをしとど打ち

二三戸はありけむ野梅咲くばかり




啓蟄の地へ下ろしたるユンボかな

地虫出づる日にして灰の水曜日

立ち込みて腰の高さの蜆舟

鋤簾の柄肩に食ひ込み蜆搔く

着陸機の腹過ぎてゆく蜆採




文士村とて似顔絵もあたたかし

イクメンを見守つてをるミモザかな

島渡船卒業式の来賓を

卒業式了へてそのまま来し墓前

分袂といふことのあり蜷の道




青といふ色を蔵して土筆の穂

芹の水見下ろすばかり病後の身

麗かに五馬力ほどか耕耘機

呉羽山春野の皺のやうにかな

鷺の嘴刺さる刹那の春の水

課題句(2019年5月号)

「若葉」       渡邉 美保 選

馬群いま向正面若葉沸く		前北かおる
神水を含めば金気若葉陰

魚付の岬の森の若葉風		杉原祐之
国文科の五限の授業若葉雨		梅岡礼子
六十九宿の一なる里若葉		本井 英
藤棚のゆさく 積める若葉かな		藤永貴之

穴ぐらのごとき入口霜の城  渡邉美保

 季題は「霜」。とは言っても眼前に「霜」が降りている、と言うのではなく、「霜」に象徴されるような凛烈な寒さをその身に纏っている「城」といったところである。虚子に〈霜降れば霜を楯とす法の城〉という句があるが、どこかその句に通じるような緊迫感が一句に漂う。「穴ぐらのごとき」とは、狭く薄暗いという表現。たしかに城の「入口」に「さあ、皆さんいらっしゃい」といった開放感はない。石組みの迫ってくる、狭く薄暗い、まるで「穴ぐら」のごとき入口に、這い上るような急階段が垂れている。

 現代でこそ観光名所として我々は面白がって出入りするが、戦国の世であってみれば命を托す砦。「霜の城」と呼ぶに相応しい厳しさに包まれていたに違いない。一句は、その緊張感を一瞬我々に味わわせてくれる。 (本井 英)