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埋火を探る冷たき火箸かな  山内裕子

 季題は「埋火」。炉や火鉢の灰の中に埋めた炭火のこと。夜、寝るときに「埋火」にして置き、翌朝、灰の中から搔き出して新しい炭を添えてやることで、炭火は継続される。

 一句はその「朝」の様子。前の晩に「埋火」として灰の中に埋めておいた「火だね」を探っているのである。一晩の間に座敷の温度は随分と下がってしまい、指にとる「火箸」はすっかり冷たくなっている。

 表現の方法としては「埋火を探る火箸の冷たけれ」という方が狙いがはっきり見えるが、それでは「あからさま」過ぎて、掲出句の句形の方が上品な感じもする。(本井 英)

雑詠(2019年4月号)

埋火を探る冷たき火箸かな		山内裕子
掌をかざし埋火確かむる
林中に薄日の差して冬の草
一団の鵜の去りてより鳰
草枯れて空気の抜けし鞠ひとつ

降り止まぬ暗き沖より鰤起し		岩本桂子
池奥よりすべり出で来し鴨の数		児玉和子
寒禽の喉を緩める日和かな 		原 昇平
ざらざらと座棺におちる冬の土		田中金太郎

主宰近詠(2019年4月号)

人工ビーチ  本井 英

食積や駅伝テレビ点けつぱなし

佳人かな破魔矢の鈴のかそけさに

駅舎から手洗所まで雪を踏む

二両分のホームの雪を踏んでおく

元勲の墨痕淋漓避寒宿



本邸に寄らず避寒の地へもどる

ジオラマのやうな漁港や避寒の地

枝影の地にやはらかや日脚伸ぶ

別れた者同士で暮らし日脚伸ぶ

日はうすうす風の無き日の都鳥



デイゴ枯れ〳〵て人工ビーチかな

大鷭と鴨と仲良くするでもなく

イケメンを自認してをる尾長鴨

運河いま寒の底なる褐色(カチンイロ)

水仙にブロック塀も古びたる



霜どけに靴底のうち重なれる

初場所の華やぎテレビ場面にも

園枯れて沼のかたちのあからさま

靴先でさぐりて蕗の薹もがな

少しおだまり日だまりの寒牡丹

課題句(2020年3月号)

「耕」        磯田和子 選

田の神へたつぷり供へ耕せる		冨田いづみ
耕馬来て学習たんぼ賑はへる

潮除も家も新建(シンダチ)耕せる		藤永貴之
鍬とりて妻のつづきを耕せる		岩本桂子
漁終へし海女は昼から耕人に		近藤作子
(シシ)がでる猿が出る畑耕さねば		本井英

観念して家業に就きぬ酉の市  矢沢六平

 季題は「酉の市」。関西・九州方面の人々にはあまり縁が無いかもしれないが、東京では十一月の大事な行事である。特にお商売をなさっている家では大切にされ、縁起物の「熊手」は銭を「搔き込む」ということから、派手に飾り立てた「熊手」を大枚はたいて買うのも商売人の心意気である。一句の主人公はもともと家業を継ぐべく育てられて来たのであったが、本人の夢は別の方面にあり、何かと言っては「家業」を継がない方向で活動してきたもののようである。ところが何かの事情、例えば働き盛りであった父親が急逝してしまったとか、自分が志した方面への道が閉ざされてしまったとかで、結局「観念して」家業を継ぐことになったのである。そうなってみれば、ジタバタするのも恰好悪いと考えたのであろう。今日は「酉の市」にもお参りをして商売繁盛を願ったというのである。久保田万太郎あたりにでもありそうな、やや小説めいたストーリーの感じられる句であるが、それなりに「酉の市」の雑踏も空想できて面白い一句になった。(本井 英)