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日の落ちて喪中の友へ初電話   小林一泊

 季題は「初電話」。電話が世間で普及して、「年賀状」に倣うようなかたちで、年始の挨拶を「電話」で交わすというような、一寸洒落た気分が漂っていた時代もあった。立子先生に〈初電話ありぬ果して父の声〉という句もある。時代は移って今は「メール」や「ライン」というのがかつての電話に成り代わっているようだ。

 さて一句は、ある友人について今年は「喪中」であるために年賀状を交わすこともない。しかし、どうしているだろうか。親御さんを亡くされたのか、はたまた連れ合いか、この句からでは判らないものの、作者は友人の淋しさを思いやっている。そこで思い立って夕刻過ぎに電話をしたのである。一句の味わいどころは「日の落ちて」。新年の日射しの中では、どこか晴れ晴れとした気分が先に立ってしまって、「喪中」の家への電話は憚られたのであろう。元日の持つ「ハレ」の気分の裏側を見事に捉えた句になった。(本井 英)

雑詠(2020年5月号)

日の落ちて喪中の友へ初電話		小林一泊
鼻歌の七草なづなパンを焼く
喧しく雨戸閉つ音寒の月
日の光届く床の間福寿草

女郎蜘蛛屑零しつつ獲物食む		山本道子
寒梅の香のしんとして流れざる		田中 香 
シツ出津文化村とや蜜柑咲く香り	藤永貴之
冬夕焼ずつと遠くへゆく列車		小沢藪柑子

主宰近詠(2020年5月号)

綾をほどきて    本井英

綾なして綾をほどきて芹の水

空映すところもありて芹の水

野の風にすこし味濃き稲荷寿司

梅林はいますつぽりとビルの陰

梅林やわが影法を連れ歩き



降りかかる雨粒若し梅は老い

紅梅の花弁貼りつく雨の幹

海苔採りの舟よと沖を指させる

クルーザーの機走のひびき湾の春

あやにくに雨の御堂や針供養



溶岩垣ののぞきはじめし雪間かな

犬来てはかならず嗅ぎて雪間草

西行を慕ふは誰も三千風忌

唱へみて心地よき音クロッカス

菜の花の黄に分け入りて眼を細う



仏の座菜の花畑の縁に咲く

白椿日陰の風も心地よく

手びさしの右手が疲れあたたかし

二 月の菖蒲田乾ききつたりな

梅 香に駐めてユンボの昼休み

課題句(2020年5月号)

課題句「鯉幟」          川瀬しはす 選

歓声に風に泳ぐや鯉幟		財前伸子
黒目がちことに緋色の鯉幟

降ろされてたたまれてゐる鯉幟		牧野伴枝
鯉幟舞ふ綱が張り竿が鳴り		青木百舌鳥
鯉幟の竿立ててをる法被かな		児玉和子
捩ぢれながら尾は腹を追ふ五月鯉	本井 英
※「選のあとのあとで  川瀬しはす」はこちら。

課題句(2020年4月号)

課題句「花」	藤田千秋 選

花の中枝黒々とはしりけり		藤永貴之
返しある畑の土に落花かな

麓より西行庵の花目指し		飯田美恵子
花吹雪病院裏を柩発つ		前田なな
並足で行く馬の背に花吹雪		町田 良
新しき切株一つ花の中		山本道子