選のあとでのあとで 川瀬しはす

 夏潮本誌で課題句の選と「選のあとで」執筆をいたしま
したが、楽しく選句した句の鑑賞をそのままにしておくの
ももったいないと思い、主宰から時限付きでのお許しをい
ただきホームページ上に特別篇を掲載することになりまし
た。
 本誌の「選のあとで」の続きとしてしばしおつきあいく
ださい。
鯉のぼり空に鯉見る池の鯉	島田けいこ
鯉のぼりではなく、鯉の視点がありました。なるほど。
鯉は驚いてますかね。楽しい句です。

鯉のぼり盆栽眺め高々と	岡本春子
 鯉のぼり目線。上から目線?になりますが、高々と、と
言っているので人の目線です。目線の移り変わりが楽しい。

鯉幟筵を出して降ろしけり	飯田美恵子
 鯉のぼりを降ろすときに筵を敷いて。そのままの情景で
すが、昔はこうしていたという時の流れが見えました。

鯉幟あげて回りて植木職	岡﨑裕子
 鯉のぼりを上げるには家人だけでは事足らず、植木屋さ
んが頼まれてしているのですね。家族が少なくなったこと
も要因のように感じました。

誂へし折目正しき鯉幟	都築華
 新品の鯉のぼりの箱の蓋を開けた時の生地の香りまで感
じられるようです。

リハビリの父折り上げし鯉のぼり	田中温子
 リハビリで折り紙をされていたのですね。几帳面なお父
様が作った鯉のぼりは少しいびつ。早く良くなって欲しい
です。

池の中池の上にも五月鯉	橋本由美子
 本物の鯉の泳ぐ池の水面に鮮やかな鯉のぼりの色が映っ
ています。

天満屋が我が家の庭と鯉幟	藤井英鷲
 百貨店の屋上でしょうか。屋上に遊園地がまだあった時
代の風景と解釈しました。

入院保証人吾子に頼める端午かな	田口松柏
 せっかくの気候の良い季節に残念ながら入院。子供の頃
は鯉のぼりを上げて面倒を見ていましたが、今では頼りに
なる息子さん。早く良くなられますように。

竿は煙突銭湯の鯉幟	浅野幸枝
 煙突の梯子に鯉のぼりを結んでいるのですね。銭湯らし
い工夫に作者は感心しています。

身の内の風ありありと鯉幟	草野鞠
 鯉のぼりが風を受けている様の表現はなかなかありきた
りになってしまうところ、形を言わずして描写されました。

極小の鯉幟立ち節句菓子	中島富美子
 和菓子屋さんで売られているのを発見しました。それほ
どはやっていない昔ながらの和菓子屋さんにひっそりと売
られていると読むと趣があります。

尼寺に子らが集ひて鯉幟	岡部健二
 尼寺と鯉のぼりの取り合わせが楽しい句です。住職が子
供好きな様子が見て取れます。

真新しき鯉幟翻る寺	小川美津子
 後継ぎが誕生して喜んでいるのはおそらく先代の住職。
作者は新しい鯉のぼりに何か背景を感じています。

風吹きてお腹イツパイ鯉幟	金子由美子
 この句はありきたりかと思いきや「イツパイ」とカタカ
ナにしたことで楽しさが感じられる句でした。

願はくは潔くあれ五月鯉	菊竹誠二
 潔くあれ、と鯉のぼりに言っているのか、それとも息子
に言っているのか、はたまた鯉のぼりに自分の姿を託した
のか。どのようにとっても興味深い句でした。

こいのぼり青空ありし子らとの日	菅原恵美子
 とても美しい思い出ですね。鯉のぼりを見て昔を思い出
しました。

鯉幟揚げて出勤したる頃	松尾青柚
 これも思い出。昭和の猛烈サラリーマンを髣髴とさせま
す。私の父もそうだったのだろうなと思いました。

弟の鯉幟うらやましとも	本間素子
 私は男兄弟だったので感じませんでしたが、姉の立場で
はそのように感じるのですね。ちょっと切ない感じも受け
ました。

初めての弟生まれ鯉幟	髙橋庸夫
 自分のことなら自分も祝ってもらっている誇らしさ、自
分以外なら姉目線で弟が生まれた嬉しさが伝わります。

鯉のぼり兄より弟活発で	村田うさぎ
 こちらの句は客観的で、鯉のぼりを手に遊んでいる兄弟
を見て気づきがありました。

後継の無かりし老いや鯉幟	田尻くがを
 これも運命ですが、今までの人生に悔いはまったくなく、
このことだけが強いて言えば寂しいとおっしゃっているよ
うに感じました。

へんぽんと戦後の空に鯉幟	井上基
 「へんぽん」は翩翻と書いて、風にひるがえる様のこと。
はじめ戦後を今の時代と読んでシニカルな印象を受けまし
たが、昭和二十一年と読んで平和を噛みしめる句ではない
かと解釈しています。

鯉のぼり翠黛山の上にあり	田中香
 京都大原の里に鯉のぼりを見ました。静かな山間の遠く
の鯉のぼりに音はありません。静けさを感じる句です。

翠巒の山懐の鯉幟	河内玲子
 翠巒(すいらん)とは緑色に連なる山々のこと。大きな風景からある場所
に、鯉のぼりへとどんどんズームインしてゆく様が面白いです。

目を見張り尾を打ち振りて鯉幟	津田祥子
 強風に勢いよく靡く鯉のぼり。丸く描かれた目がまるで
目を見開いているようだと作者は感じました。

空高く尾鰭跳上げ鯉のぼり	北尾千草
 こちらも強風の中。鯉のぼりの躍動感を感じるとともに、
シャッターを切るごとく一瞬をとらえた句です。

海風に暴れよじれて鯉幟	町田良
 海近くの強風。のたうち回っているかのようです。波の
荒々しい様子も感じられます。

疾風に右往左往の鯉のぼり	武居玲子
 強い風の吹く方向が一定ではなく鯉のぼりも慌てふため
いているように見えました。

子を抱く父の見上げし鯉幟	塩川孝治
 作者の「父」と読みました。三世代の楽しい時間を切り
取った句です。もちろん子供も一緒に鯉のぼりを見ていま
す。

竿の先五彩流るる吹流し	相磯豊子
 今回、吹流しの句はこの句だけでした。美しい色と流れ
るように靡く軽さを感じました。

鯉幟の庭に缶けり鬼ごっこ	梅岡礼子
 今の家の庭ではなく、昔の思い出の中の庭と読みました。
鯉のぼりに子供の頃を思い出して。

岐阜城の麓に住ひ鯉幟	近藤作子
 岐阜城といえば斎藤道三、織田信長と戦国時代の武将の
名前が連想されます。鯉のぼりも勇ましそうです。

生真面目で器量よしなる鯉のぼり	小池みち
 鯉のぼりの真ん丸な目が生真面目そう、よく見ると器量
もよいと鯉のぼりをじっと見ていて思ったのですね。

鯉幟別れた孫も就職す	関口直義
 昔は同居していて遊んであげていた孫が家を出てもう就
職する歳になりました。鯉のぼりを見て孫を思い出しまし
た。

大川に膨らむ千の鯉幟	大山みち子
 川に綱を渡して鯉のぼりを飾るイベントが各地で行われ
ます。たくさんの鯉のぼりですが数を「千」と言い切った
ところが潔い句です。

お土産や歌舞伎隈取る鯉幟	酒井一彦
 歌舞伎座のお土産にありそうですね。実際に見かけられ
て作られたように感じますが、歌舞伎好きの友人からもらっ
たお土産と読めば、後の会話が弾む様子も想像できます。

鯉幟のぎよろ目を囲むアイライン	前北麻里子
 作者は鯉のぼりの眼に焦点を絞りました。確かに目の縁
取りはアイラインのようにも見えますね。

クレヨンの鱗折り紙鯉幟	河村雅子
 折り紙の鯉のぼりにクレヨンで鱗を描きました。クレヨ
ン、で幼稚園で園児が作ったものと伺えます。

園児等の歌大声に鯉幟	北村武子
 園に飾られた鯉のぼりの前で先生の指揮で歌っているの
を微笑ましく見ています。園児たちもそろそろ幼稚園に慣
れてくる頃で、入園児と様子も変わってきました。

幼児の手に手に紙の鯉幟	磯貝三枝子
 園児をお迎えに行ったのでしょうか。ぞろぞろと門を出
てくる子たちがみんな鯉のぼりを手にしています。ゴール
デンウイーク後半が明日から始まる日です。

パパ苦戦柱の立ちて鯉幟	木野内安紀子
 父ではなくパパと言ったことで違う景が浮かびます。か
なり郊外の広い一戸建ての庭と読みました。

鯉幟ダム湖に沈むその前に	浦上ひづる
 村の最後の鯉のぼり。もしかしたらここ十数年は鯉のぼ
りが上がっていなかったのかもしれません。

海風に松の上なる鯉幟	藤田千秋
 海風が強く鯉のぼりも盛んに揺れています。結構大ぶり
な鯉のぼりの姿が見え、風光明媚な土地柄のようです。

武家屋敷保存街並鯉幟	櫻井耕一
 城下町に武家屋敷の残る一角があり、そこに上がる鯉の
ぼりを見ました。その通り、と膝を打つような納まりのよ
い句と感じました。

小児病棟手造りの鯉幟	遠藤真智子
 看護師さんたちが作ってくれたのでしょう。子供たちも
作ったかもしれませんが、手作りの表現に大人の愛情を見
て取りました。子供たちの笑顔が目に浮かびます。
 実はこの句、本誌に掲載の冨田いづみさんと漢字の使い
方が違うだけで同じ句でした。誰もが作れる句とは思いま
せんでした。

岸を幾重にお下がりの鯉幟	園部光代
 鯉のぼりイベントの景。使わなくなった鯉のぼりなので
すが「お下がり」とは優しい表現ですね。

草の上の影躍りづめ鯉のぼり	前田なな
 遮るもののない広い公園の真ん中に立つ鯉のぼりが風を
受けています。風が止むことのない様子を影に焦点を合わ
せての表現です。

渓渡る綱に危ふし鯉のぼり	木代爽丘
 鯉のぼりイベントでしょう。深そうな谷に渡された綱に
結わえられた鯉のぼりが危ういことはないのですが「危ふ
し」という作者の感情が面白いですね。

鯉幟ばさり〳〵とめくれたり	永田泰三 ※(〳〵)同音の記号
 ばさりばさりというオノマトペがこの句のポイント。め
くれたり、と物体としてのとらえ方が面白く感じました。

余所よりももっと高くと鯉幟	久保北風子
 ずいぶん高く上げた鯉のぼりなのでしょう。やや皮肉な
視線で見ているように感じました。余所、を同じ町の中で
なく他の町と読めばもっとシニカルになりますね。

みどりごやタンスの上の鯉幟	松島盛夫
 陶製の置き物の鯉のぼりを想像しました。家族が赤ちゃ
んの成長を願う気持ちが見て取れます。

上げ降ろし爺の日課よ鯉幟	中島遥
 悠々自適。鯉のぼりを出しっぱなしにしていると雨風で
色褪せや傷みが激しくなるとのこと。毎日上げ下ろしをし
ている人がいるとは気づきませんでした。

鯉幟色褪せ風を満々と	羽重田民江
 古い鯉のぼりですが、大きく堂々と風を受けている様子
が浮かびます。鯉のぼりに風格を感じます。

鯉幟村に小学校ひとつ	小沢藪柑子
 山間の村。児童もそれほど多くなさそうに感じられます。
でも子供が大事にされていることが想像できます。

新しき家新しき鯉幟	磯田和子
 まさにその通りです。作者の素直な視線が窺えます。言
い切りが爽快な句です。

旧家より子の泣き声や鯉幟	釜田眞吾
 後継ぎ誕生でしょうか。泣き声しか聞こえず実は男の子
なのか女の子なのかわかりませんが、作者は男の子と想像
(推理?)しました。

城内に住める家あり鯉幟	藤永貴之
 その家は何をご職業にされているのでしょうか。作者も
何をする家なのだろうと疑問に思っているようです。

風吹けば風に応えて鯉幟	大貫松子
 風が吹いていないときの鯉のぼり、風が吹いた時の鯉の
ぼり両方の姿が思い浮かびます。

鯉幟風をはらみて生き返る	梶浦珠代
 にわかに風が吹いてきてそよぐ鯉のぼり。それを生き返
ったようだと捉えました。

強風に引っからまりて鯉幟	深瀬一舟
 強い風が吹いて並んでいる鯉のぼりの尾が絡んでいます。
風の向きは一定ではなく、低気圧が通過するときなどに発
生するにわかな強風と想像されます。

鯉幟みどりの庭に泳ぐなり	前北かおる
 我が家の庭でしょうか、それともどこかの庭園でしょう
か。いずれにせよ伸びやかに泳ぐ鯉のぼりです。

風止みて縦に静まる鯉幟	佐藤聡
 風が止んだ時の鯉のぼり。作者は風が吹いていた時から
鯉のぼりを見ていました。

蒼天の大舞台舞ふ鯉幟	皆川和子
 雲一つない晴天の空の色まで想像できます。そこに映え
る鮮やかな鯉のぼり。色彩的な句と感じました。

母ひとり子ひとりの家鯉幟	渡辺深雪
 あまり裕福でない家庭かもしれません。よって鯉のぼり
が小さいことも想像されます。

和菓子屋でおまけにもらう鯉幟り	清水マリ
 柏餅を買ったのでしょう。喜ぶ子供も大きくなって、あ
げる当てもないのですが、ちょっと嬉しい気分です。

鯉幟今年も増えて横並び	天野明雀
 鯉のぼり祭の情景と読みました。昨年より増えたという
ことは揚げる家が少なくなっていることの裏返しでもあり
ます。

やうやくに授かりし子や鯉幟	天明さえ
 第一子のように感じました。生まれてきたのが男の子で
あったと。ご両親の喜ぶ様子が想像でき微笑ましいです。

待望の男の子たまひし鯉のぼり	原田淳子
 旧家ですね。上には女の子が三人。雛祭は盛大そうです。
鯉のぼりも立派なものでしょう。

富士の風孕み園庭鯉幟	武田きよみ
 富士を借景にした庭の鯉のぼり。富士山からの颪は少し
ひんやりしていそうです。

鯉のぼりの影交差する保育園	田中金太郎
 鯉のぼりの季節。園児たちが園庭で思い思いに遊んでい
る光景が目に浮かびます。

土手沿いのぽつり古屋に鯉幟	川上宗助
 この句は列車からの風景と見て取りました。流れゆく景
色の中、鉄橋を渡ったところにある古屋に視点を合わせて
います。

マンションの窓に小さく鯉幟	遠藤房子
 ベランダではなく窓なので、家の中の出窓に鯉のぼりを
飾っています。

爺婆の見栄ふくるるや五月鯉	馬場紘二
 かなりシニカルな視線ですね。あえて五月鯉と言ったと
ころも感じが出ています。初孫が生まれたのですね。

原っぱに百匹泳ぐ鯉幟	小川久仁子
 原っぱ、最近見かけませんね。支柱を立て綱を渡して鯉
のぼりを飾っているのでしょうか。のびやかです。

校庭に張り渡したる鯉幟	清水満
 たくさんの鯉のぼりがいそうなので、もしかすると廃校
でのイベントであるかもしれません。

のびのびと園の庭中鯉のぼり	幕田かれん
 イベントでたくさんあるのではなく、一式の鯉のぼりが
風を受けて庭いっぱいに泳いでいる様が目に浮かびました。

大寺に大きくありて鯉幟	川瀬しはす

最後までお読みいただきありがとうございました。
令和二年皐月
川瀬しはす

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