平日を子どもと過ごす桜餅 永田泰三 工場の敷地にテニスして長閑 寝ころびて蒲公英ほどの目の高さ 麗らかや電気で走る乗用車 茎立や土手にほまちの畝立てて 山内繭彦 北窓を開けて潮の香波の音 磯田和子 寒冷紗柵に絡げて耕せる 天明さえ 木蓮や物納とする家屋敷 矢沢六平
雑詠(2020年8月号)
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平日を子どもと過ごす桜餅 永田泰三 工場の敷地にテニスして長閑 寝ころびて蒲公英ほどの目の高さ 麗らかや電気で走る乗用車 茎立や土手にほまちの畝立てて 山内繭彦 北窓を開けて潮の香波の音 磯田和子 寒冷紗柵に絡げて耕せる 天明さえ 木蓮や物納とする家屋敷 矢沢六平
英傑のあり 本井英
定期便着きたる島も夏立てる 桐の花散れる音とてありにけり にはたづみ乾きしあたり桐落花 八箇ぴつたりお持たせの柏餅 ほとりほとり花降らするは禅寺丸
黄菖蒲の黄の気の置けぬ黄なりけり をとつひの夜中の今朝のほととぎす 漁港より葉桜の道丘へ伸び 楠若葉湧いておでこがくつつきさう 鱚釣のボート随分沖に浮く
蛸壺の紐ごはごはや波止薄暑 青葉潮沖の生簀は八角形 青葉潮敷く洗岩に暗岩に 青葉潮を小さく切りとり船溜り 浜大根の実とはどこやら丁呂木めき
船虫や評定もなく集ひ散り 遁走の船虫様子見の船虫も 船虫に英傑のあり凡夫あり 横転の海月やさらに反転す 港内の夏潮に棲むソラスズメ
課題句「トマト」 藤野 澪 選 とりどりの色かたちしてみなトマト 天明さえ もてなしの盥に冷やすトマトかな 初なりのトマト大きくいびつかな 武田きよみ 濡縁に一気に喰らふトマトかな 田中温子 葉の枯れて実の赤残るトマト畑 磯田和子 蔕つまみ口に入れたるプチトマト 永田泰三
季題は「桜」。一句の鑑賞のポイントは「二人の桜」。「二人で買った桜」、「二人で植えた桜」、「二人の想い出の桜」などなど。解釈はさまざま。ともかく「二人の桜」と言うだけで、少なくとも当の「二人」には判る「そんな桜」があるのだ。ちょっと「甘い」表現なので、他人様には聞かせられないが、毎年その時期になると「二人」はその桜の咲くことが、何よりも楽しみだったのだろう。「伝へばや」は「伝えたいものだ」の謂い。ということは「二人」のうちの「一人(すなわち相手)」は、今「二人の桜」の咲いていることを知らずにいるということになる。そして「その人」がとても遠くにいるらしいこと、現代的に喩えるならスマホで撮った画像さえ届かない「遠隔の地」にいるのではないかとの解釈が自ずから見えてくる。「幽明境を異にする」とも言う。筆者に〈笹子来てをるよと告げむ人もがな〉という句がある。何かにつけて「思い出す」という辛い日々とお察しする。(本井 英)
伝へばや二人の桜咲き初むと 牧野伴枝 手作りのマスク姉より文添へて 後退りしつゝ初花確かむる 花の句を遺愛のペンで清書する 両腕で鎖を抱へ半仙戯 藤森荘吉 春障子内より声の洩れて来し 山内裕子 木曽川に机を洗ひ卒業す 近藤作子 その中に陰とぢこめて雲の峰 藤野 澪