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蜂追ひの紙縒りキラキラ秋日和 矢沢六平

 「蜂追ひ」は主に信州で行われている猟。クロスズメバチ(ジバチともスガルとも呼ぶ)の巣を掘り出して、中の幼虫などを食べ物として収穫する。「猟」の方法は、初めにイカなどの動物蛋白で蜂を誘き寄せ、その一匹に「白い紙縒」の付いた餌を抱かせ、その餌を巣に運ばせる。巣に向かって飛び始めた「蜂(目印の紙縒)」を数名の男達が追いかけ、「蜂の巣」を突き止め、後は煙で蜂たちを気絶させ、その隙に「蜂の巣」を掘り出してしまう。そんな「蜂追ひ」の実際を一句にしたものだが、中七の「紙縒りキラキラ」に林間の木漏れ日の中を飛んでいく蜂の様子が遺憾なく描写されていて面白かった。「いくたて」を説明せずに、印象的な一場面だけで表現したところに力強さまで感じられた。東京を遠く離れて信州に棲まっている作者ならではの一句と言えようか。(本井 英)

雑詠(2021年2月号)

蜂追ひの紙縒りキラキラ秋日和		矢沢六平
売りに来てそのまま茸談義かな
子等のあと親がつきゆく虫送
東京へ出て行つたきり柿たわわ
鷹匠や食はせる時に鷹を見ず

夫がゐて家あたたかく十三夜		冨田いづみ
甘藷畑に島の全校生徒かな		梅岡礼子
朝礼の正方形を鳥渡る		黒田冥柯
畑とも道ともつかず韮の花		飯田美恵子

主宰近詠(2021年2月)

辿ればやがて 本井 英

枯れてなほ屯を解かず紫菀らは

枯るるとは乾きゆくこと紫菀叢

葉も茎も花びらも枯紫菀かな

葉はなえて茎にまとはり枯紫菀

いづこともなく紫や枯紫菀



枯紫菀空仰ぐこと疾うにやめ

来る風をいとふのみなる枯紫菀

枯紫菀に頰をよせたり語らまく

枯紫菀焚いてくれよと身じろげる

枯紫菀へ介錯の庭鋏かな



  俳誌「稲」へ
稔る色たがへながらも稲筵

野尻湖のさびしき頃の一茶の忌

椋鳥(ムク)々々と蔑まれつつ一茶の忌

老といふ敵手強(テゴワ)しよ一茶の忌

人の世の醜きことも一茶の忌



落葉かさなしてゆゆしき土塁かな

今日の雨に草枯さらにはらばへる

嵐電に場末とてあり夕時雨

時雨つつ妓楼の名残かすかにも

時雨つつ辿ればやがて美濃ざかひ
◯特殊標記 (1)ルビ 滴りや 山の心斯く (2)詞書      

博多二句

(3)添字      干し上げて若布本 ありにけり  or       一谷戸の奥の奥まで菖蒲園 (4)長音等記号      〳〵 〴〵 〱 〲

課題句(2021年1月号)

課題句「万両」           児玉和子 選 

万両や蔵に用事の多かりし		近藤作子 
万両や風呂敷包み抱へ来る 

万両や雨降りがちの城下町		山内裕子 
万両や口調明るく悩み深く		杉原祐之 
蹲踞に屈み万両目の高さ		三上朋子 
万両や母の教へを守りたる		田中温子 

残りページ気にしつつ読む良夜かな  馬場紘二

 季題は「良夜」。名月がくまなく照らす夜のこと。作者は今、読書中。読み始めはやや難渋しながら読んだ本が途中から興が乗って、どんどんページが進み、当初予想していた時間よりも早く読了しそうな様子を想像した。昼間から心設けしていたことだが、今宵は仲秋の名月。天気予報では晴れて全国的に「お月見日和」とのこと。いま読んでいる書物は、何処かで中断して夜はゆっくり「月見を」と考えていた作者だが、思わず読書のペースが上がり、この分では読み終えてから「月見」が出来そうに思えてきたのであろう。家人の話では「月」は、もう大分高く上がっているらしい。中断するか、読了するか、そんな気持ちで、ときどき「残りページ」を気にしている作者の姿が想像できた。作者が「轟亭の小人閑居日記」で有名な読書家であることを考え合わせると、いかにも静かで知的な時間が流れていることも感じられる。 (本井 英)