名はなんと 本井 英
枯るるは枯れ散るは散りはて山眠る 日に熨されながらも緑冬の草 姫川はチャコールグレー雪の底 除雪機の幅だけ除雪してあるよ 雪片の白とは違ふ黒ではなく
藪巻の仕上げはちよんと縄を断ち 藪巻の小ぶりなれども砦なす さらにまた風にちぎれて浪の花 浪の花丘の校舎におよびけり ストーブにありて渡船の来たる見ゆ
おでん屋の暖簾の縄のてらてらす 校歌にも唄はれてゐる大冬木 たつぷりと畳に冬日屋形船 鮟鱇の七つ道具の名はなんと 吸ひ出され吹き上げられて木の葉たり
隈笹の隈の育つも十二月 ひろらかに雁金草の枯れあそび 大枯木微塵の老も無かりけり 凩のこたびはことに飯桐を 木蓮の冬芽つまべばあたたかし
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主宰近詠(2015年2月号)
行方もなかりけり 本井 英
肌寒の青色発光ダイオード 鯊の顎とらへし赤く小さき鉤 世に古りてさらに時雨忌修すなる 上方はよろづ馴染めず時雨の忌 落葉籠猫を拾つて来たりけり
山の湯へ蒟蒻掘を見つつ過ぐ 蒟蒻を掘るや膝より下は闇 ソフトボールほどの蒟蒻玉掘れる 綿虫の小さく揺れ大きくも揺れ 帰り花窓ちかければ部屋の灯に
帰り花散りて行方もなかりけり 鯉沈む淵もいくつか村の冬 堰越ゆる時に膨らみ冬の水 眠る山の吐息のごとし川細し 猪罠の外にも藷を散らし置き
信濃なる空の深さの木守柿 冬ざるる沢庵の墓一字無し 枯れ蕩け大葉擬宝珠の大葉かな 酉の市の廓 へと足の向きしころ ていねいに干す河豚の尾や風の無き
主宰近詠(2015年1月号)
はやしはやし 本井 英
見覚えの倒木もあり湿地採り 熊鈴を手で振ることも湿地採り 数珠玉や暗渠出てきて水笑ふ 数珠玉のまだ色づかぬ青二才 騎馬戦の騎馬組み上がり風わたる
シスターのスプーンレースはやしはやし 一湾にひつつれも無き秋の潮 部屋の日の届かぬ辺り紫苑立つ 日の紫苑雨の紫苑を愛すかな 秋晴も三時を過ぎて谷戸に風
秋晴の暮れたる闇のやはらかき 稲雀いまさら逃げていく一羽 穴まどひ逃げしもう一匹をりし 草の間をくちなはの斑の流れけり 山影のおよばんとする箒草
咲けるものなほありながら草紅葉 色変へぬ松龍鱗もほつれなく 秋声や文庫が谷戸と呼ぶはここ 鴨を見てをるやうで見てない漢 かしこみて仄暗がりに七五三
主宰近詠(2014年12月号)
切られてんげり 本井 英
草蜉蝣髭撓みたり直りたり 草蜉蝣髭を綰ねてみせもする 甚平やそげてかなしき尻の肉 米山へ見ゆるかぎりの豊の秋 三つ巴の一頭離脱蝶の空
吻の黄のたのもしきかな大秋刀魚 秋刀魚掴めばくんなりと彎曲す 鉦叩明窓浄机とはゆかず 釣人の背に燃えてゐる曼珠沙華 曼珠沙華の白とは呼べど象牙色
菱提げてこれが実これが浮袋 いくたびも浮かべる湖面揚花火 石橋の大一枚を秋水に 鯉の尾が撃てば秋水動乱す やがて橋にかかる彼女や庭の秋
叶ふ石あれば坐しもし水の秋 村の道そこらの韮も実となりて 青鷺のひもじき素振りとてもなく 墓主は切られてんげり法師蟬 受け答へ礼儀正しく鯊を釣る
主宰近詠(2014年11月号)
ざぶざぶ下る 本井 英
浅間へと土用の大地迫り上がり すこやかにひしめく乳房青胡桃 炎天に三重塔乾ききり 白妙を失ひつつも稲の花 訪へば網戸の奥に亡妻棲める
土砂降りに吊りつぱなしの氷旗 脹脛一歩々々に日焼けけむ 鳥威きゆつきゆつきゆつと色走り 人忘るごと瀧音を遠ざかる 新涼の山毛欅を聞く人山毛欅抱く人
茸はべらせ太郎橅次郎橅 罪の無ささうに乳色茸かな 橡の実のごりごりごりと生りつのる 血より濃きところどころや草紅葉 身じろぎて露のとんばうまだ飛べぬ
くちなはは人に見られぬことを是と 秋空を展覧会のやうに雲 右舷にはYMCA夏木立 凌霄花冬は雪積む高さぞと 釣り了へてざぶざぶ下る岩魚沢