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主宰近詠(2015年3月号)


名はなんと  本井 英

枯るるは枯れ散るは散りはて山眠る

日に熨されながらも緑冬の草

姫川はチャコールグレー雪の底

除雪機の幅だけ除雪してあるよ

雪片の白とは違ふ黒ではなく



藪巻の仕上げはちよんと縄を断ち

藪巻の小ぶりなれども砦なす

さらにまた風にちぎれて浪の花

浪の花丘の校舎におよびけり

ストーブにありて渡船の来たる見ゆ



おでん屋の暖簾の縄のてらてらす

校歌にも唄はれてゐる大冬木

たつぷりと畳に冬日屋形船

鮟鱇の七つ道具の名はなんと

吸ひ出され吹き上げられて木の葉たり



隈笹の隈の育つも十二月

ひろらかに雁金草の枯れあそび

大枯木微塵の老も無かりけり

凩のこたびはことに飯桐を

木蓮の冬芽つまべばあたたかし

主宰近詠(2015年2月号)


行方もなかりけり  本井 英

肌寒の青色発光ダイオード

鯊の顎とらへし赤く小さき鉤

世に古りてさらに時雨忌修すなる

上方はよろづ馴染めず時雨の忌

落葉籠猫を拾つて来たりけり



山の湯へ蒟蒻掘を見つつ過ぐ

蒟蒻を掘るや膝より下は闇

ソフトボールほどの蒟蒻玉掘れる

綿虫の小さく揺れ大きくも揺れ

帰り花窓ちかければ部屋の灯に



帰り花散りて行方もなかりけり

鯉沈む淵もいくつか村の冬

堰越ゆる時に膨らみ冬の水

眠る山の吐息のごとし川細し

猪罠の外にも藷を散らし置き



信濃なる空の深さの木守柿

冬ざるる沢庵の墓一字無し

枯れ蕩け大葉擬宝珠の大葉かな

酉の市の(ナカ)へと足の向きしころ

ていねいに干す河豚の尾や風の無き

主宰近詠(2015年1月号)

  
はやしはやし   本井 英

見覚えの倒木もあり湿地採り

熊鈴を手で振ることも湿地採り

数珠玉や暗渠出てきて水笑ふ

数珠玉のまだ色づかぬ青二才

騎馬戦の騎馬組み上がり風わたる



シスターのスプーンレースはやしはやし

一湾にひつつれも無き秋の潮

部屋の日の届かぬ辺り紫苑立つ

日の紫苑雨の紫苑を愛すかな

秋晴も三時を過ぎて谷戸に風



秋晴の暮れたる闇のやはらかき

稲雀いまさら逃げていく一羽

穴まどひ逃げしもう一匹をりし

草の間をくちなはの斑の流れけり

山影のおよばんとする箒草



咲けるものなほありながら草紅葉

色変へぬ松龍鱗もほつれなく

秋声や文庫が谷戸と呼ぶはここ

鴨を見てをるやうで見てない漢

かしこみて仄暗がりに七五三

主宰近詠(2014年12月号)


切られてんげり    本井 英

草蜉蝣髭撓みたり直りたり

草蜉蝣髭を綰ねてみせもする

甚平やそげてかなしき尻の肉

米山へ見ゆるかぎりの豊の秋

三つ巴の一頭離脱蝶の空



吻の黄のたのもしきかな大秋刀魚

秋刀魚掴めばくんなりと彎曲す

鉦叩明窓浄机とはゆかず

釣人の背に燃えてゐる曼珠沙華

曼珠沙華の白とは呼べど象牙色



菱提げてこれが実これが浮袋

いくたびも浮かべる湖面揚花火

石橋の大一枚を秋水に

鯉の尾が撃てば秋水動乱す

やがて橋にかかる彼女や庭の秋



叶ふ石あれば坐しもし水の秋

村の道そこらの韮も実となりて

青鷺のひもじき素振りとてもなく

墓主は切られてんげり法師蟬

受け答へ礼儀正しく鯊を釣る

主宰近詠(2014年11月号)


ざぶざぶ下る   本井 英

浅間へと土用の大地迫り上がり

すこやかにひしめく乳房青胡桃

炎天に三重塔乾ききり

白妙を失ひつつも稲の花

訪へば網戸の奥に亡妻棲める



土砂降りに吊りつぱなしの氷旗

脹脛一歩々々に日焼けけむ

鳥威きゆつきゆつきゆつと色走り

人忘るごと瀧音を遠ざかる

新涼の山毛欅を聞く人山毛欅抱く人



茸はべらせ太郎橅次郎橅

罪の無ささうに乳色茸かな

橡の実のごりごりごりと生りつのる

血より濃きところどころや草紅葉

身じろぎて露のとんばうまだ飛べぬ



くちなはは人に見られぬことを是と

秋空を展覧会のやうに雲

右舷にはYMCA夏木立

凌霄花冬は雪積む高さぞと

釣り了へてざぶざぶ下る岩魚沢