主宰近詠(2014年11月号)


ざぶざぶ下る   本井 英

浅間へと土用の大地迫り上がり

すこやかにひしめく乳房青胡桃

炎天に三重塔乾ききり

白妙を失ひつつも稲の花

訪へば網戸の奥に亡妻棲める



土砂降りに吊りつぱなしの氷旗

脹脛一歩々々に日焼けけむ

鳥威きゆつきゆつきゆつと色走り

人忘るごと瀧音を遠ざかる

新涼の山毛欅を聞く人山毛欅抱く人



茸はべらせ太郎橅次郎橅

罪の無ささうに乳色茸かな

橡の実のごりごりごりと生りつのる

血より濃きところどころや草紅葉

身じろぎて露のとんばうまだ飛べぬ



くちなはは人に見られぬことを是と

秋空を展覧会のやうに雲

右舷にはYMCA夏木立

凌霄花冬は雪積む高さぞと

釣り了へてざぶざぶ下る岩魚沢