ざぶざぶ下る 本井 英
浅間へと土用の大地迫り上がり すこやかにひしめく乳房青胡桃 炎天に三重塔乾ききり 白妙を失ひつつも稲の花 訪へば網戸の奥に亡妻棲める
土砂降りに吊りつぱなしの氷旗 脹脛一歩々々に日焼けけむ 鳥威きゆつきゆつきゆつと色走り 人忘るごと瀧音を遠ざかる 新涼の山毛欅を聞く人山毛欅抱く人
茸はべらせ太郎橅次郎橅 罪の無ささうに乳色茸かな 橡の実のごりごりごりと生りつのる 血より濃きところどころや草紅葉 身じろぎて露のとんばうまだ飛べぬ
くちなはは人に見られぬことを是と 秋空を展覧会のやうに雲 右舷にはYMCA夏木立 凌霄花冬は雪積む高さぞと 釣り了へてざぶざぶ下る岩魚沢