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テレビ解説妻の解説蜆汁   酒泉ひろし(2014年9月号)

 季題は「蜆汁」。如何にも庶民的な汁物の代表でありながら、肝臓に良いなどという話も聞く。テレビを付けっぱなしにしながら夫婦が差し向かいで朝餉を摂っているのであろう。テレビはどのチャンネルを廻しても、朝のバラエティー番組。外交の問題から、経済情報、スポーツから芸能と次から次へと話題は移り、その道の「通」という人が画面一杯に映って「一くさり」解説をしている。

 そんなテレビを見ながら、茶の間では「妻」が一々、感想を述べたり、解説者とは異なる情報や意見を開陳する。男から見ると、そんなことをどこで聞いてきたのかと訝しく思うほど女性(殊に妻)は「情報通」なのである。それも政治・経済・スポーツ・芸能万般。男というものは、どこかで世間との「対応」を縮小したり閉じたりしがちなものだが、女性はどこまでも情報を収集、蓄積、分析を怠らない。この辺りに近年筆者が、女性一般に尊敬と畏怖の念を抱く主たる要因があるのであるが、それはこの句の作者とて、同じであろうと思う。季題の「蜆汁」にやや諦観に近い、しみじみした気分が漂っていよう。(本井 英)

雑詠(2014年9月号)

テレビ解説妻の解説蜆汁       酒泉ひろし
矢車の音に目覚めし日曜日
鯉のぼり納め終へたる天袋
草取りつ何処ぞに妻の植ゑしもの
昼見れば汚れて立てり誘蛾灯

えごの花道狭ければ草に落つ     高瀬竟二
茶摘女として茶畑に集ひをり     田島照子
寺領出て寺領に入る竹の秋      岩本桂子
鳶二つ若葉山より滑り出づ      町田 良

主宰近詠(2015年6月号)


遠きはお俠   本井 英

(ユカ)にうねり止まざる裸押

(キザハシ)をなだれ落ちたり裸押

救急隊割り込んでゆく裸押

端正に有職雛はやや地味に

小さきほどさらに楽しや雛調度



煽られて鳶ののけぞる春疾風

葉牡丹の茎立ちそろひロンドめく

膝小僧寄するばかりや春炬燵

耕人にいつまで低く夕日かな

貝母なほ上向く蕾ありながら



どうど坐しわが身ほとりの犬ふぐり

鶯の遠きはお俠近きは艶

尾を止めて蝌蚪の着底しづかなる

萌えてもう浜昼顔の葉のまろし

蘆の角水のもつれも見えながら



蘆の角生活(タツキ)の水も流れそひ

穂は呆け袴は蕩け土筆たり

ほころびて褒められて朝桜かな

春蘭の一 叢を風跨ぎ越ゆ

日本間も幾間かありて花の館

主宰近詠(2015年5月号)


邸うちなる    本井英

風吹きて縦に伸びゆく鴨の陣

霜柱きらり暫くしてきらり

池普請の底ひぺらぺら氷るかな

雨の野の遠き白梅心ひく

雨流れはじめし梅の径かな



栄螺積む皿魴鮄が伏せる皿

ミモザの黄咲くとき重さなかりけり

五つ六つ雨に閉ざせる犬ふぐり

日ざしまだ高からねども犬ふぐり

荻野屋の釜飯の釜犬ふぐり



田水なほ冷たからんに義仲忌

神鶏の交るを追ひて禰宜若し

初午やとろりとろりと遠太鼓

初午の邸うちなる小賑はひ

初午に見かけて母の割烹着



初午の客やぱらりと下船せる

恋あはれ鞘当あはれ猫の声

牡丹の芽を育みし日の沈む

繊々と現れ旧正の二日月

春時雨情けはもつれやすと句碑 

主宰近詠(2015年4月号)


ぞつと真白き    本井英

海へだて恵方に嶺々のたたなはり

とめどなき湯玉めでたし福沸

初みくじ背中合はせに読んでをり

招かれて女所帯や歌留多の夜

初釜の帯のお太鼓庭へ向き



枯葎へ鼬駆け込み駆け出づる

万両や膝の丈なる腰の丈なる

雪女のぞつと真白きちりけもと

出口からちよつと覗けて冬牡丹

反りあげてみよがしの尾や尾長鴨



枯芝の広さの贅を露台より

寒鯉の吐き出す水の縺れけり

西郷の犬は耳立て寒日和

匍うて人無きごとく海鼠舟

海鼠舟流るるとなく移りをり



翻り枝つかみしは尉鶲

白紋の雄はきつぱり尉鶲

春子はや頭こつりと春隣

五寸ほど落つる水音春隣

崖下に剪定を待つ梨畑