テレビ解説妻の解説蜆汁   酒泉ひろし(2014年9月号)

 季題は「蜆汁」。如何にも庶民的な汁物の代表でありながら、肝臓に良いなどという話も聞く。テレビを付けっぱなしにしながら夫婦が差し向かいで朝餉を摂っているのであろう。テレビはどのチャンネルを廻しても、朝のバラエティー番組。外交の問題から、経済情報、スポーツから芸能と次から次へと話題は移り、その道の「通」という人が画面一杯に映って「一くさり」解説をしている。

 そんなテレビを見ながら、茶の間では「妻」が一々、感想を述べたり、解説者とは異なる情報や意見を開陳する。男から見ると、そんなことをどこで聞いてきたのかと訝しく思うほど女性(殊に妻)は「情報通」なのである。それも政治・経済・スポーツ・芸能万般。男というものは、どこかで世間との「対応」を縮小したり閉じたりしがちなものだが、女性はどこまでも情報を収集、蓄積、分析を怠らない。この辺りに近年筆者が、女性一般に尊敬と畏怖の念を抱く主たる要因があるのであるが、それはこの句の作者とて、同じであろうと思う。季題の「蜆汁」にやや諦観に近い、しみじみした気分が漂っていよう。(本井 英)