旅愁とよびて 本井 英
豹紋のパンプス青き踏みて立つおもちや箱開いたやうに囀れる 教はりてうはみず桜ほわつと白 雉の夫茶藪をぬけて梨棚へ さきほどの雉なるべし遠く啼く富山稽古会 十六句
二声目嗄れて雉の夫あはれ 雉の夫間遠に啼いて風の村 啼くほかは日がな一日雉の夫 雉聴くや旅愁と呼びて可ならんか 伝ひゆく風の遅さに八重桜
新湊大橋蜃気楼日和 囀のからつからつと川原鶸 蒲公英やびぶらの爪を矯めなほし いつの間に丘の高きに蕨採り 蕨採る一日おきに同じ場所
つばくらの今朝の低さや膝掠め 若木には無理させずとよ梨花の棚 根にちかく菖蒲の花のつつましや さやりさやりと吾亦紅若葉これ 丁字草の紫人に阿ねざる
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主宰近詠(2016年6月号)
まんま食ふこと 本井 英
照らされてお水送りの瀧枕 松明やお水送りも火もてなす うはずりて鱵の見ゆる波間かな 雛の忌の立子の墓にチョコレート 奥まりてよそよそしさよ御殿雛
香道のことは判らず雛調度 薙刀もありてよからん雛調度 蝌蚪生れて世になじまんと尾を振れる 紫陽花の芽吹き口笛吹くやうに お数珠玉からびて真白水温む
草萌のなぞへの囲む土俵かな 樺太への海を往き来せしと 漁る奥尻島は丘低き 文豪も文士も絶えて春寒し 春寒の爬虫類館窓少な
目にすこしうるさいほどに梅散れる 囀を仰げば柄長そのかたち 鷺が餌を得るはなかなか水温む 涅槃図を掛けてさつさと沙弥消えし ままごとはまんま食ふこと蝶の昼
主宰近詠(2016年5月号)
二百号とて 本井 英
島山は近づくほどに笑むと見ゆ 島径にぽかと空地や仏の座 島の春市長選挙のポスターも 明日葉にかくれ煙草のコックかな 仲間とははぐれたまんま島椿
下萌に命中したる鳥の糞 草青み釈宗演の隠居寺 草萌のここの直下が破砕帯 きしめんのあぶらげ甘し春寒し 梅林は天守仰ぐによきところ
濡縁のなぐり滑らか笹子鳴く 坂あれば橋橋あれば春の水 ここにまた花街ありきと温む水 春愁を追ひ出してゆく護摩太鼓 谷戸ごとの一ヶ寺二ヶ寺春浅し
春の浅さの台東区江東区 忘れけり忘れられけり春浅し マスクの眼のぞき久闊叙しにけり 春浅し病みて不参の人のこと あたたかや二百号とて遠からず
主宰近詠(2016年4月)
とらやは重し 本井 英
鳥影の流るる障子福茶汲む 食積や駅伝テレビ点いたまま 初夢の妻には言はぬ部分かな 初夢の中で死体となつてをる 救急車とすれちがひたり福詣
来宮の駅が真下や寒見舞 手に提げてとらやは重し寒見舞 寒鯉の睦むともなく争はず 煮凝がごはんで溶けてゆく香り 干蒲団叩くや音は遅れ着き
娘の暮らし訪へば葉牡丹植ゑてをる 馬印のごとくにアロエ咲きわたり 池普請腰の深さを往き来して 池水のとことん濁り池普請 先週の雪まだ残り枕ほど
鉤の手に折れてつぎつぎ冬座敷 岬宮に位階とてあり冬椿 朝の日に覗き込まれて寒椿 裸婦像の尻の美し春を待つ まだといふ言葉たのもし春を待つ
主宰近詠(2016年3月)
鮪船 本井 英
鮪来るころ風に風波に波 鮪船舳を天に沖したる 客もなき日々の水腰障子かな 撞木やや細きを吊りて落葉寺 雪吊や代々つゞく医家と見え
水洟や野鳥観察舎にひとり 顔見世の曽我の対面はしけやし 顔見世のはねてホテルに戻るのも 風邪ひきて二重瞼がちよと嬉し 花枇杷や花街のころを誰も知らず
ほたほたと止まらぬ蛇口枇杷の花 川漁を閉ぢて楮を蒸す日頃 よく漉けし紙はほゝゑみをるといふ 火の森のごとく見事やシクラメン 鴨の頬お多福風邪のやうに張り
池からはどれも登りや落葉坂 鎌倉や懐浅く山眠る 水音を小さくこぼし山眠る 午にちかく日の届かざる枯木寺 青木の実色づいていく途中かな