鮪船 本井 英
鮪来るころ風に風波に波 鮪船舳を天に沖したる 客もなき日々の水腰障子かな 撞木やや細きを吊りて落葉寺 雪吊や代々つゞく医家と見え
水洟や野鳥観察舎にひとり 顔見世の曽我の対面はしけやし 顔見世のはねてホテルに戻るのも 風邪ひきて二重瞼がちよと嬉し 花枇杷や花街のころを誰も知らず
ほたほたと止まらぬ蛇口枇杷の花 川漁を閉ぢて楮を蒸す日頃 よく漉けし紙はほゝゑみをるといふ 火の森のごとく見事やシクラメン 鴨の頬お多福風邪のやうに張り
池からはどれも登りや落葉坂 鎌倉や懐浅く山眠る 水音を小さくこぼし山眠る 午にちかく日の届かざる枯木寺 青木の実色づいていく途中かな