主宰近詠(2016年3月)


鮪船       本井 英

鮪来るころ風に風波に波

鮪船舳を天に沖したる

客もなき日々の水腰障子かな

撞木やや細きを吊りて落葉寺

雪吊や代々つゞく医家と見え



水洟や野鳥観察舎にひとり

顔見世の曽我の対面はしけやし

顔見世のはねてホテルに戻るのも

風邪ひきて二重瞼がちよと嬉し

花枇杷や花街のころを誰も知らず



ほたほたと止まらぬ蛇口枇杷の花

川漁を閉ぢて楮を蒸す日頃

よく漉けし紙はほゝゑみをるといふ

火の森のごとく見事やシクラメン

鴨の頬お多福風邪のやうに張り



池からはどれも登りや落葉坂

鎌倉や懐浅く山眠る

水音を小さくこぼし山眠る

午にちかく日の届かざる枯木寺

青木の実色づいていく途中かな