主宰近詠(2016年6月号)


まんま食ふこと     本井 英

照らされてお水送りの瀧枕

松明やお水送りも火もてなす

うはずりて鱵の見ゆる波間かな

雛の忌の立子の墓にチョコレート

奥まりてよそよそしさよ御殿雛



香道のことは判らず雛調度

薙刀もありてよからん雛調度

蝌蚪生れて世になじまんと尾を振れる

紫陽花の芽吹き口笛吹くやうに

お数珠玉からびて真白水温む



草萌のなぞへの囲む土俵かな

樺太への海を往き来せしと

漁る奥尻島は丘低き

文豪も文士も絶えて春寒し

春寒の爬虫類館窓少な



目にすこしうるさいほどに梅散れる

囀を仰げば柄長そのかたち

鷺が餌を得るはなかなか水温む

涅槃図を掛けてさつさと沙弥消えし

ままごとはまんま食ふこと蝶の昼