再開発つつぱね西日強きこと 稲垣秀俊(2013年11月号)

 季題は「西日」で夏。夏の夕日は射してくる角度が低いことも手伝って、堪えがたく辛いことが多い。そんな「西日」が「再開発」を拒んでいる旧態な町並みに照射しているのである。「再開発」は、おそらく駅周辺のような一等地に、それにはふさわしからぬゴタゴタした低く廉い家並みがあるのに目をつけたのであろう。駅前広場を整備してバスやタクシーの発着をスムースにしよう、とか、大きなビルに建て替えて流行のテナントを誘致しようとか。どのみち、「お金」になると見込んだ開発業者が、地元の商店主などに持ちかけてきたのである。それをどう話が拗れたのかはわからないが、結果として「つつぱね」ることになったのである。一時夢見た「素敵な未来」はかき消えて、何十年も変わらない「西日」が今日も饐えたような家並みを照らしている。事実に取材した句かもしれないし、空想の産物かもしれない。どちらにしても「西日」の情けなくなるような光線が読者の目に浮かべば一句は成功したといえよう。(本井 英)

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