立ちつくす 本井 英
遠雷や嬬恋村は山の裏 夕立の降りつのるとは音つのる 百日紅咲くや薬玉割るるやう 中干しの田へくれてやる水走る 何育つ畝となけれど滑莧
ずたずたにちぎれる水を滝と呼ぶ 滝風を横一線に浴びるかな 滝壺へつつ込むまでの水無言 その奥は曲がりて見えず岩魚沢 つつかけて来たる岩魚の釣られける
蒼然と鼓楼はありぬ雲の峰 鼓楼なる闇や秋蚊もをるべけれ 村花火酣もなく仕舞ひけり 岳麓の農のくらしも盆を過ぎ義妹 多恵子 長逝
寝苦しき夜夜の果てたる小鳥かな
松虫草撮らむ揺るるな揺るるなよ 足湯出し足がまつ赤や秋の風 霧こめてきたる足湯に一人ぼち 高原や秋の朝日をあたたかと 秋風に背から抱かれて立ちつくす