「落選展2011」を読む。
前北かおる「二等星ばかり」/生駒大祐「いちにち」/小早川忠義「浅葱裏」
落選展に掲載のあった作品群(20作品)より「夏潮」に縁のある人を中心に幾つかを紹介したいと思います。
1.前北かおる「二等星ばかり」
まず紹介させていただくのは、「皆様に愛されるアイドル俳人」にして「第一回黒潮賞受賞者」の前北かおるさん。
「二等星ばかり」と言うタイトルで50句出句されております。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_29.html
今回の50句を読んでの印象としては、淡々と季題を詠み込んだ句が多く、「ロマンチスト」全開の俳句群ではありませんでした
季題を愛でる「目」が感じられる句が多く、他の作品と比べても季題が効果的である句が多かったです。
また、得意の「見立て」の句についても納得の出来る俳句が多かったと思います。
・庭にまはり座敷の雛を一見す
・剪定の脚立の下の将棋かな
・朧夜や蝋燭の火もドビュッシーも
・大川は機関車に似てさみだるる
・衝立の向かうの透けて夏座敷
・鶏頭や捨てにし職を忘られず
・続々と三桁ゼッケン体育の日
・滝仰ぎゐれば風花目のあたり
・泣いてゐし目の潤みや初笑
「秋風の橋上に人待ちてをり」「叢中に真つ逆さまや鵙の狩」「冬空に透けて見えたる宇宙かな」「金粉の輝く花弁福寿草」などには先行句があると思われます。
また「仰ぐ」と言う動詞が頻出しており、視点が固定されている感があり若干損をしていると思います。
今回の50句は同じリズムの句並んでしまい、平板な印象を与えてしまったのかもしれません。
この点については難しいところで、我々の詠み方で押していくと、そうなりがちでです。
ただし、「花鳥諷詠」を標榜する我々としては、この詠み方を貫いていくべしだと確信をしています。
2.生駒大祐「いちにち」
続いて生駒大祐さんの「いちにち」を紹介します。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_4379.html
生駒さんは「天為」所属。深夜句会や小諸日盛会にも参加されています。東大の理系の大学院生で現在は「週刊俳句」の編集にも参加されています。
湿り気の或る叙情で、情景を素直に詠まれた句に好感を持ちました。写生の目が非常に良いと思います。季題の雰囲気をぐっと引き出すことに長けています。
・やはらかな箱に収むる干鰈
・源流のおほきな魚や辛夷散る
・枇杷割れば種子あやまたず濡れてをり
・切先はさらに古りゆきあやめぐさ
・明後日のこと貼られある冷蔵庫
・にはとりの首見えてゐる障子かな
「や」の切れ字が多く、取り合わせが多いのですが、一寸その狙いが透けて見えすぎていたかもしれません。
3.小早川忠義「浅葱裏」
3人目は小早川忠義さんの「浅葱裏」。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_1567.html
小早川さんは「童子」に所属。一度、twitterの縁で池袋句会に来て頂いたことがあります。
短歌の世界でもご活躍されていて昨年第一歌集「シンデレラボーイなんかじゃない」を出版されています。
市井の人の生活を淡々と描いたような句に、独特の視点があり俳句の定型の力が生きていると思いました。
・人の輪にありて話さず枯葎
・かきまぜてをれば葛湯にとろみ立つ
・寒紅や夭折歌手の遺影濃く
・人日の素うどん温く喉に落つ
・小正月ミルクの缶に穴二つ
・北窓を開ければ月の淡くあり
一方表題句の「ひめ始め浅葱裏とは呼ばれずに」を初め、
「いかにして友とすべきか雪女郎」「寒卵煮え湯にそつと沈ませぬ」「涅槃図や仲の良き者ばかりなり」
などの句は多弁であり、作者の狙いが見えすぎてしまっており、読者として入込む余地が少なくなってしまっています。
〆