風花の峠越え来て春祭   児玉和子(2014年7月号)

 季題は「春祭」。他の歳時記類では既に散見していた季題であるが、虚子篇『新歳時記』には無く、ホトトギス編『新歳時記』にも見えなかったが、近年「三訂版」に至って初めて立項された。春季に行われる「祭」ということであるが、夏の「祭」、「秋祭」などに比べると一般的な印象を結びにくく、どこやら山間の祭を連想させる。本来の新年の予祝行事が新暦の関係などから、立春以後にずれ込んだ印象もある。

 さて掲出句であるが、どこか春遅き山里のひっそりした春祭の雰囲気が漂う。民俗学の方面には詳しくはないが、三河、信濃の山中に伝わっているというさまざまの「祭」などを思い描いてもいいだろう。ともかくも「風花」の舞う淋しい峠を徒歩で越えて「春祭」をわざわざ見に来た人物がいるというのである。例えば「青崩峠」などは、現在でも道路(国道)は不通の状態で、歩いて越えるという。

 「風花」と「春祭」の季重なりを案ずる向きもあろうが、この句の場合、全く問題ない。  (本井 英)

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