主宰近詠(2014年6月号)


湯の廊下  本井 英

水鳥の蹴りひろげたる足の裏

剪定やときをり鋸の出番ある

春泥に踏み籠められて藤の莢

薬袋の朱うつくしき涅槃絵図

春川を跨ぎて灯る湯の廊下



立ち話のあいだ鶯途切れをる

揚舟に犬を結はへて防風摘む

一村のすこし高みに彼岸寺

お彼岸の雨の住宅展示場

河いつぱい彼岸の雨の水輪かな



菜の花の黄色や雨と関はらず

よろこんで弾んで手押し耕耘機

切通し抜ける磯風花椿

家も田も失せ梅木立あるばかり

琅玕に耳を当つれば春の風



春の水めらめらめらと橋映す

一景に辛夷の白を散らしけり

頸ねぢて貝母の花を覗きあぐ

春愁の身を樹下に置き橋に立て

兄を悼む

さま〴〵のひとつ〳〵の落花かな