主宰近詠(2011年5月号)


島うらら    本井 英

雪の衾の林檎園葡萄園

園内に瀧ふたつある余寒かな

薄氷を捧げて景を覗くかな

出くはして我が眼をさぐる春の猫

信号の赤の濃うなる暮雪かな



雪が雨にかはりはじめし水輪かな

草萌を吹くエアコンの室外機

盆梅の正面を決めかねてをり



福岡、室見川三句

橋杭にまとはりながら温む水

一人遅れ素魚シロウオ料理始まらず

素魚シロウオや鉢の翳りに身をよせて



博多二句

霾へ向け出港したり五島便

今宵またネオンが浮かぶ水温む



能古島四句

だん〳〵に雲厚くなる磯遊

半鐘は疾うに失せをり島うらら

波音がはるか下より紅椿

出港や島の全景春雨に



名護屋城二句

春雨に樟の香充つる三の丸

落椿遊撃丸にころげ落つ

たち去りてまたたち去りて西行忌