主宰近詠(2011年6月号)


サクラとや     本井 英

 

大鉢の藍のふかさや君子蘭

掌をそへて拭ふ広葉や君子蘭

二日灸三密加持と説かるれば

書割のやうに春潮イルカショー

干しあがるウエットスーツ春の蠅



風止めばゆきわたりたる春日かな

里山のおしるこ色の芽吹きかな

一水のマフラーほどに落椿

丘の日に全開の犬ふぐりかな

玻璃ごしに春日貼り付くリノリウム



瑕瑾なき白ゆきとどく椿かな

蘂の黄のいよよ華やぎ白椿

春寒の小諸は風ぞ厭はしき

豆柴犬の名はサクラとや春浅し

春空に色のながるる川原鶸



嚠喨と囀るときの四十雀

はくれんの傷みそめたるココア色

はくれんは二階の窓のために咲く

はくれんに午後の永さの始まれる

ほぐれつつ畳皺あり紫木蓮