関悦史句集『六十億本の回転する曲った棒』(邑書林)
関悦史さんの第一句集。関悦史さんは昭和四十四年茨城県生れ。 二十代半ばより俳句を作り始め、平成十四年に「マクデブルクの館」で第一回芝不器男新人賞の選者賞を受賞。その後、『新撰21』など各種アンソロジーに参加。
また、その評論は素晴しく、第十一回俳句界評論賞などを受賞している。現在の若手俳人を代表する論客として、各種シンポジウムには欠かせない存在となっている。
氏は現代美術、文学、音楽に深い造詣を持ちその詩心は若手俳人でも圧倒するものがある。まさに「現代の奇才」と呼んでも良いだろう。
その強烈な名称の句集名から分るように、その豊かな教養と感性を俳句詩形に生々しくぶつけ表現している。しかしながら、その表現が生々しく、800句以上(※1)の句群を読むのに楽しくも疲れた。
結局、私が印を付けられたのは客観的に突き放しつつ季題が効いている句だった。やはり俳句の詩形と言うのは生の感情をぶつけるものではないのではないだろうか。
こういう俳句も高く評価を受けているという意味で非常に勉強になる。我々の俳句の詠むスタンスを確認するうえでもお薦めの一集である。
是非、皆様の御好きな一句を揚げてみてもらいたい。
全9章、800句以上の大規模句集であるので、ポイントを絞って句をご紹介したい。
1.NY同時多発テロを詠んだ一群も印象的だった。「襞」より。
・多くの死苦の引掻傷(エクリチュール)のある夏天
・人類に空爆のある雑煮かな
・グローバリズムなるゴーレムも春の土
2.関氏は3月11日の東日本大震災に被災された。
その経験を詠まれた 「Ⅸ うるはしき日々」から。
・瓦失せし所が黒し春の月
・停電なれば井戸水も出ぬ揚雲雀
・永き日の家のかけらを掃きにけり
・天使像瓦礫となりぬ卒業す
・「移転しました」春光鋭き欠片の路地
・揚羽蝶交みて不意に地まで落つ
・足尾・水俣・福島に山滴れる
「邑書林」のHP
http://younohon.shop26.makeshop.jp/shopdetail/001000000001/
関悦史のブログ「閑中俳句日記(別館)」
http://kanchu-haiku.typepad.jp/blog/
〆
※1:集録句数について誤って600句余りと記載。指摘を受け修正。