潮風をほしいまゝなる昼寝かな 良 (泰三)

 お気に入りの手袋を片方落としてしまい、悲しくて仕方がない泰三です。皆さんいかがお過ごしですか。

 季題は昼寝で夏。虚子編新歳時記には、「夏期は夜が短いのみならず、暑さのために常に睡眠不足であるので、仕事に耐へ難い日中を利用して午睡をする人が多い」と解説される。

 しかしこの句の場合、仕事の合間と言うよりも海辺のバカンスといった様が私には想像される。なぜなら、「潮風をほしいまま」にしての昼寝だからである。作者は、日常の仕事の中にあっては、「権勢をほしいまま」にしているのかもしれない。もしくは年若い者であるならば、「権勢をほしいまま」にしている上司からいいようにこき使われているのかもしれない。いずれにしても、この句の中の人は、そんな日常から離れ、ゆったりとした時を過ごしているように思われる。

 潮風はもちろん無料。海辺にいる誰にでも平等に吹いてくる。しかし、作者は、その潮風を「他ならない自分がほしいまま」にしていると感じた。自然の中で俳句を詠んでいると、あたかも花は自分のために咲いてくれている、また雲は自分のために流れてくれているといった不思議な感覚に陥ることがある。そのような感覚を、さりげない口調で一句に仕上げた気持ちのよい句である。

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