投稿者「taizo」のアーカイブ

春昼の鳩の歩めるイルカショー かおる (泰三)

 季題は春昼。穏やかな春の昼間を云う。

 イルカショーの舞台はだいたい屋外にある。そして、プールを囲み階段状の座席がならんでいる。プールの奥には、海が見えたりもして、狭いところに閉じ込められてイルカは大変だななんてちょっとセンチメンタルな気持ちにもなるが、この句には、暗い気配なんて全く感じられない。

 イルカがジャンやアクロバットな業を披露しているのを脇目に鳩が呑気に歩いている。きっと、ショーに夢中になっている子供達の食べこぼしにでも預かろうとしているのだろう。

 イルカショーなんてといったら失礼な言い方になるかもしれないが、目を凝らして懸命に見なければならないものでもない。春昼の長閑な感じが伝わってくる句である。

開放弦太く響きて冬の夜 美穂 (泰三)

  皆さんお久しぶりの更新です。いかがお過ごしですか。

 季題は冬の夜。開放弦とは指で弦を押さえずに音を出すこと。押さえないが故に振動の幅が大きく、まさしく太く響く。室内管弦楽であろうか。特にチェロなどの大きな楽器の開放弦は、ずんとお腹に響いてくる。冬の寒い空気を揺らしている感じもする。

着ぶくれて犬に曳かれてをりにけり 武子 (泰三)

 新年度ですね。今年度も、どんな良い句に出会うことが出来るかとても楽しみにしている泰三です。

 季題は着膨れで冬。厚着してぱんぱんに膨らんでいることを云う。

 寒かろうが暑かろうが、犬は散歩に連れて行けとわんわんわめく。寒い中行きたくは無いのだが、しぶしぶと着膨れて連れて行く。犬は元気に駆けようとするが、人間は寒いし、着膨れていて体が上手く動かない。リードがぴんと張り、犬のやる気が空回りしている様は何とも悲しいが、滑稽でもある。

 滑稽な景色を、淡々とした控えた言葉で表現したのがこの句の手柄であろう。

 

首筋に風やはらかく秋の海 淳子 (泰三)

 夏潮の新年会楽しかったですね。また皆様にお会いできる日を楽しみにしています。

 季題は、秋の海。夏の潮風だったら、ねっとりとまとわりついてくるもので、決して「やはらかく」とは感じない。夏場のように人々が海に出ている訳でもなく、浜辺にも人はまばらなのだろう。

 秋の海辺では、落ち着いてゆっくりと海を眺めることが出来る。着ている服も夏とは違い露出は、首筋だけが露出している。そこに風を受け、「やはらかく」感じた。