季題は「ジャケツ」。『虚子編新歳時記』、『ホトトギス編新歳時記』ともに季題としての記載は無いが、内容的には寒い季節の上着としての認識は広く行き渡っており、季題として扱うことに抵抗はない。因みに『角川大歳時記』(二〇〇六年版)では「ジャケット」として掲出。傍題として「ジャケツ」・「カーディガン」・「ジャンパー」を掲げている。衣料の分野は殊に流行り廃りが激しく、季題の認定は難しい領域ではあるが、掲出句の場合はその「手触り」まで伝わってくるので、季題として充分な実感のあるものとして扱った。一句は「亡夫」とあることから、大凡の状況は察せられ、容易ならざる心の内も充分に推量出来る。大切なご主人を亡くされて暫く経って迎えた「冬」であろう。寒さを防ぐ爲に、久しく着る人の無かった「ジャケツ」に、なんとなく腕を通されたのだろう。永年見慣れた柄の「ジャケツ」を「着てみる」と、思ったより「重く」「暖かかった」。俄に「亡夫」の俤が蘇り、「心地良い」と思えたというのである。こうして俳句として「亡夫」を詠まれることが、どれほどご主人の供養になることか、拝読する方も心に感ずるものがあった。(本井 英)
亡夫のジャケツ着て居心地良かりかり 小山久米子
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