季題は「雉子」。「きじ」とも呼べば、「きぎす」ともいう。筆者が自覚的に雉の声を聴いたのは、随分大人になってからのこと。それまで知識として和歌に詠まれたものや、あるいは「雉も啼かずば撃たれまい」のような諺では、知ってはいたが、雄の雉が、二声づつ、もの悲しげに啼く声を知ってからは、特別の心の揺れを覚えるようになった。そして富山、呉羽山で聴いた「雉」の、ちょっともの悲しげな、そして遠くまで聞こえる「あの声」は今でも、耳に甦る。この句の魅力の在りどころは、「啼く」の繰り返し。先ず一度「啼く」と提示しておいて、さらに重ねて、「喉に力を入れて」と繰り返す。そこに雌の雉を慕う、「雉の夫」の切ない気分が否応なく籠められている。作者の心が「雉の夫」に「ひたっ」と寄り添っていることが判る。(本井 英)
雉子啼く喉に力を入れて啼く 北原みゆき
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