酸実の花日影にはかに夏めきぬ  青木百舌鳥

 「酸(ズ)実(ミ)の花」は「小梨の花」とも呼ばれ、山地の荒地や湿原などで見かける。上高地の河童橋近くの「小梨平」など、この花に因んだ命名であろう。純白な清楚な五弁花は印象深い。「酸実の花」でも夏の季題として採用している歳時記は少なくないが、この句の季題は「夏めく」。つまり一句の主役は「酸実の花」ではなくて、その花を咲かせている木立の作る「日影」の様子から、作者は「夏の到来」を実感したというのである。さきほど「上高地」の地名に言及したが、筆者が初めてこの花を認識したのは軽井沢でのこと。ご一緒だった清崎先生が「ズミだよ」と教えて下さった。この句、つまりは「酸実の花」の咲く頃の信州の「空気感」みたいなものが間違いなくある。それも「日向」でなく「日影」。筆者のような関東者にとって「夏の信州」は憧れの対象、その象徴のように「酸実の花」は咲いている。(本井 英)

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