ひとりの磯遊 本井 英
料峭や病禍地を這ひ海に浮かび 今年また貝母の場所に貝母咲き 下萌の香り充ちたり暁の闇 浜大根の花のむらさき刷毛でちよと 岩跳んで老のひとりの磯遊
雨の輪の明るさにある浮巣かな 浮巣降りたちまち潜き鳰 かづきては交替しては鳰の親 春雨のこまかや保与を降りつつみ ※「保与」は「寄生木」の古名 日向水木のちやうちん袖のこぞり咲く
一平杉菜の青を盛り均し ちりめんのやうに囀峡に充ち 水筋を逸るるあたはず蜷の道 蝌蚪の尾がたてては流し泥けむり 蝌蚪の尾のわらわら揺れてはたと止み
蝌蚪のくろ雲のごとくにわだかまり 昼からは風が走りてつくし原 新旧の養蜂箱を草萌に 蜂うかぶ養蜂箱のあはひかな こぼれゐて敷くにはとほき落椿
主宰近詠(2020年6月)
コメントを残す