水に落ち水際に落ち桐の花   田中 香

 季題は桐の花。桐は鳳凰がとまる木として古来尊ばれてきた木。一方では箪笥や下駄の材料として大切にされ、その花の紫は遠くからでもその色と判り親しまれて来た。また、降り溜まった落花の香りも印象的だ。一句はその落花の様子を詠んだものだが、「水に落ち水際に落ち」のリズム感が独特で人の心を捉える。正確にはリフレインではないのに、類似した音が短時間に繰り返されるためにリフレインと同じ効果を上げ、さらに「水」と「水際」という異なる状況に落花している「桐の花」を脳裏に描くことで、その花の質量感と色彩感が、ありありと浮かんでくる。

 こう解説すると計算され尽くした措辞のように思うかも知れないが、そうではない。作者には気の毒な言い方になるかも知れないが、それは不意に「口をついて出てきた言葉」に過ぎなかったのだと思う。その思ってもいなかったフレーズを得たときに「これでいける」と判断した作者の力量は評価すべきである。偶然に近い感じで浮かび上がってくる「言葉」をしっかり摑む訓練を怠ってはいけない。(本井 英)

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