課題句「柊の花」 石本美穂 選 夕まぐれ柊の香に戻りたる 三上朋子 三味線の音や柊の花こぼす 柊の花や玉の湯営業中 飯田美恵子 つまみあげてのひらにのせ花柊 天明さえ 柊の花門柱は大谷石 児玉和子 割烹や柊の花客を寄せ 本井 英
日別アーカイブ: 2023年11月7日
課題句(2023年10月号)
課題句「新松子」 田中金太郎選 新松子磯馴れの松も減りにける 児玉和子 東海道品川宿の新松子 松陰の墓所に青々新松子 山口照男 新松子灯台までの岬みち 井上基 手の中にそっと沈めん新松子 磯貝三枝子 新松子街道筋の黒塀に 大山みち子
掬はれて名前を貰ひ屑金魚 村田うさぎ
「金魚」は夏の季題。大きさも値段も「ピンキリ」で「蘭鋳」などとなると一尾何万円もするらしい。一方、金魚掬い用の安物はまさに「屑金魚」、もっとひどいのになると他の動物や魚の為の「生き餌」として売り買いされるものもあるらしい。さて本句の「屑金魚」は「掬はれて」とあるように「金魚掬い」のための「金魚」だ。そんな「金魚」だったが、家に連れて帰られて、水槽に放たれると、なんとなく家族の一員のように扱われ、「名前」を付けてもらって、「餌」を貰うような幸運を得たというのである。まさに「赤いべべ着た 可愛い金魚 おめめさませば 御馳走するぞ」の境遇だ。心優しい「子供」とその家族の振る舞いを、あっさりと表現していながら、よく考えると、「生きる」とか「運命」とかいう重い言葉が背後にちらちら見える句になっていると思えた。(本井 英)
雑詠(2023年11月号)
掬はれて名前を貰ひ屑金魚 村田うさぎ 夕虹や恩師のその後杳として 夏潮やフェリー発ちたる波止寂と 車内騒つく鬼やんま乗り込みて 鮎釣の傍を漕ぎ来るラフティング 羽重田民江 木槿咲く遺品整理に通ふ道 岡﨑裕子 冬霞香取海のたゞ中に 信野伸子 八百段登りて後の茅の輪かな 浦上ひづる
競馬場のスタンド見ゆる植田かな 冨田いづみ
季題は「植田」。早苗を植えてまだ間も無い頃の田圃である。「代田」との違いは、勿論、植えて有るか無いかの違いで判りやすいが、「青田」との違いは微妙である。筆者は「空」が映り込む間は「植田」。水面が見えなくなるのが「青田」というぐらいの目安で考えている。そう考えると「植田」という時期はそう長くは無いかも知れない。「競馬場」のスタンドは馬場の遠くまで見渡す必要もあって、なかなか高い建物が多いようであるが、筆者は、この句の作者ほどには「競馬場」を訪れたことが無いので、詳しくは知らない。脳裏に浮かぶのは「右に見える競馬場、左はビール工場」といった歌詞ぐらいだが、あんな処に「田圃」はあったかしら?と思うと、いささか不安にもなる。
あるいは「その道の達人」になると「新潟」とか「福島」とかの競馬場まで進出するのかも知れないが、さすがにそれらの「競馬場」のロケーションについて筆者の知るところではない。ともかく一面に広がった「植田」越しに「競馬場のスタンド」が仰がれ、良く見ると「田の面」にちらちらとそれらしい色が映っているのである。初夏の気持ちいい風が戦いでいる。(本井 英)