京菓子の甘さほどよき夕祓 石神主水 男梅雨枯山水の波荒れて 黒々と藻の豊かなる鮎の川 夏蝶をまとひて来たる女かな 女郎花夕日失せたる小暗さに 藤永貴之 青嵐馬捨坂をくねり下り 深瀬一舟 パドックの馬の高さに蜻蛉とぶ 冨田いづみ 樟落葉恐竜展の外は雨 久保光子
雑詠(2016年10月)
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京菓子の甘さほどよき夕祓 石神主水 男梅雨枯山水の波荒れて 黒々と藻の豊かなる鮎の川 夏蝶をまとひて来たる女かな 女郎花夕日失せたる小暗さに 藤永貴之 青嵐馬捨坂をくねり下り 深瀬一舟 パドックの馬の高さに蜻蛉とぶ 冨田いづみ 樟落葉恐竜展の外は雨 久保光子
季題は「夕祓」。「御祓」の傍題である。現在では多くの神社が新暦の六月晦日に行っており、『ホトトギス編新歳時記』でも六月の最後に据えられた。京都上賀茂神社も新暦での夜分の形代流しは有名。一句はまさに、百人一首の〈風そよぐ楢の小川の夕暮れは御祓ぞ夏のしるしなりける〉の世界である。そんな京都の御祓の行事に侍って、帰りには「京菓子」を買って帰宅したのであろうか。しみじみ味わう、その菓子の上品な甘さに京都ならではの歴史の豊かさを実感している作者である。(本井 英)
夏めくや百葉箱のある小島 飯田美恵子 寄居蟲のどんなに小さくとも殻に 礁より突と現はれ夏帽子 椨落葉島に小さな天神社 緋牡丹の溢るゝやうに崩れけり 前田なな 川に向け勝手口あり草の花 櫻井茂之 町つなぐ新しき道花水木 北村武子 秋晴の小国富士あり貴賓館 藤永貴之
季題は「夏めく」。五月も半ば頃になると、草木の緑もようやく濃くなり、万物すべてが夏の装いを始める。「百葉箱」は気象観測のための機材を備えた「箱」。「ひゃくようばこ」とも「ひゃくようそう」とも呼ぶ。地上一・五メートルほどの高さの、鎧戸で覆った、白い箱である。
作者は、とある小島に上陸したのである。荒々しい磯や白砂の浜を目で追っているうちに「白い箱」に気づいた。近づいてみると「百葉箱」であった。それだけのことではあるが、「夏らしい美しさに塗り上げられた小島」と、そこで日々気象観測をしている人物に思いが及ぶ。得られたデータは、あるいは通信で遠く離れた気象台に送られているのかも知れない。が、それでも「百葉箱」を介して、この小島の自然に向き合っている人物、暮らしがあることに作者の思いは飛んだのであろう。(本井 英)
永き日の動く歩道に運ばるる 天明さえ 鳩の巣に開けぬ窓とし日々眺む 遮断機のまたすぐ下りて諸葛菜 奔放に棚をはみ出し藤咲ける ぐいぐいと乳に吸ひつく花の下 近藤作子 満開の木蓮に月混じりけり 前北麻里子 角曲るまでを見送り日永かな 前田なな 春愁や夫の書架伊勢物語 岩本桂子