夏めくや百葉箱のある小島     飯田美恵子

 季題は「夏めく」。五月も半ば頃になると、草木の緑もようやく濃くなり、万物すべてが夏の装いを始める。「百葉箱」は気象観測のための機材を備えた「箱」。「ひゃくようばこ」とも「ひゃくようそう」とも呼ぶ。地上一・五メートルほどの高さの、鎧戸で覆った、白い箱である。

 作者は、とある小島に上陸したのである。荒々しい磯や白砂の浜を目で追っているうちに「白い箱」に気づいた。近づいてみると「百葉箱」であった。それだけのことではあるが、「夏らしい美しさに塗り上げられた小島」と、そこで日々気象観測をしている人物に思いが及ぶ。得られたデータは、あるいは通信で遠く離れた気象台に送られているのかも知れない。が、それでも「百葉箱」を介して、この小島の自然に向き合っている人物、暮らしがあることに作者の思いは飛んだのであろう。(本井 英)

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