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主宰近詠(2017年7月号)

芭蕉林   本井 英

蕗原を雨が鞣して青の色

城垣のたるむあたりの花菫

あたたかや網を繕ふ右手に杼

花の雨焼き場に向かふバスも着き

亀鳴くや夜舟のありしころのこと




コンビニが出来しころより亀鳴かぬ

春の蠅翅ほつそりとをりにけり

画眉鳥の囀いよいよ華語めくよ

雨風に古巣の腰の抜けはじめ

ふりたてて短く勁く蜷の髯




つかの間を春潮に置き箱眼鏡

芭蕉林かな径出あひ水出あひ

芭蕉玉巻く肩ぽんと叩きたく

芭蕉林抜け黄菖蒲をはるかにす

雲雀落ちはじめて白つぽく見ゆる




落ちそめて雲雀大きくながれけり

村うらら五百余柱殉国碑

若蘆や手旗のやうに葉をかまへ

黄色から始まつてをり蛇苺

深川に行幸啓碑昭和の日

課題句(2017年6月号)

「十薬」       前北かおる 選


嘘を塗り重ねどくだみ踏み潰す			杉原祐之
十薬や教会裏の農具小屋
シーツ干す十薬だたみすれすれに		岩本桂子
望まるるままに十薬わけにけり			田島照子
十薬の莟まつたき白を得て			本井 英
十薬や今に伝へて首塚と			町田 良

野遊のリード伸ばせるだけ伸ばし 井上基

 季題は「野遊」。「踏青」、「青き踏む」という季題もあるが、それらより時間的にも空間的にもやや広い感じがある。「リード」にはさまざまな意味があるが、ここでは犬を繋ぎ止める紐の謂い。近年の「ことば」である。まだ『広辞苑』には登録されていない模様だが、電気の「引き込み線」・「導線」から援用されたものであろう。さらに新聞記事などの「導入部分」の意味でも使われる。また英語でのスペリングも発音も異なるが、簧(した)の意味の「リード」も日本語の中では使われる。これはクラリネットなどの音源の振動を作るもの。「リード楽器」などともいう。

 話は変わるが、最近ある句会で「ホーム」という言葉を使った句が出て、それを筆者は鉄道の「プラットホーム」ととって選句し、解説もした。ところが仲間の一人が「老人ホーム」の意味でも解釈できるのでは、と異議を唱えられた。その句に関しては、確かにそういう解釈も成り立つ。なるほどと思うと同時に、「ことば」の面白さを思った。

 もちろん前後の言葉の関係から、ほとんどの場合正しく伝わるのであるが、中には微妙なケースもあるものである。

 俳句に使う「ことば」に関して、特別に「規則」があるわけではない。その時代、その時代に「無理なく伝わる」言葉として扱えばよいのであろう。

 さて「リード」の句。近年は愛犬家のために、短くすれば一メートルくらいでも、伸ばせば最大十メートルほどにもなるものが売られているようである。上天気の「野遊」。作者の気持ちも晴れ晴れ、そんな主人の意向を察して犬も上機嫌なのである。「伸ばせるだけ伸ばした」「リード」の先の犬の勢いまで見えてくる。(本井 英)

雑詠(2017年6月)

野遊のリード伸ばせるだけ伸ばし		井上 基
梅林の地図あまりにもおほざつぱ
白梅の丘海峡の自衛艦
ガラガラと春一番の波頭

スクラッププレス工場の雪の果		今井舞々
竹きゆうと鳴りて北風そこにあり		稲垣秀俊
なつかしきこもれ日坂の茂かな		飯島ミチ
白梅の吹き流されてゆく水路			小沢藪柑子

主宰近詠(2017年6月号)


沼いくつ    本井 英

くまぐまに雪ありながら春子かな

春水がレンズのやうに湧くところ

海の幸盛りたる笊も雛調度

犬筥の犬の器量に佳きわろき

雛調度なれば具足も可愛ゆらし




キスチョコのやうな蕾を木苺は

帰る鳥の眼下を過ぐる沼いくつ

ところどころぬかるんでゐる苗木市

七味屋の屋台も出たる苗木市

はくれんの弛むたちどころに(ホグ)




仏の座かたまり咲けばその色に

はこべらに(テノヒラ)かぶせやはらかし

一木を剪定したる枝の山

大寺の沙弥ののどかの受け応へ

卒業の日の「おはよう」を交はし合ひ




西行忌老ゆればさらに心なき

猫車(ネ コ)通す小板渡して水温む

蕗の花長けたりうすら汚れたり

置き去りの鍬にさらさら春の雨

雨を来る人々に焚く春煖炉