野遊のリード伸ばせるだけ伸ばし 井上基

 季題は「野遊」。「踏青」、「青き踏む」という季題もあるが、それらより時間的にも空間的にもやや広い感じがある。「リード」にはさまざまな意味があるが、ここでは犬を繋ぎ止める紐の謂い。近年の「ことば」である。まだ『広辞苑』には登録されていない模様だが、電気の「引き込み線」・「導線」から援用されたものであろう。さらに新聞記事などの「導入部分」の意味でも使われる。また英語でのスペリングも発音も異なるが、簧(した)の意味の「リード」も日本語の中では使われる。これはクラリネットなどの音源の振動を作るもの。「リード楽器」などともいう。

 話は変わるが、最近ある句会で「ホーム」という言葉を使った句が出て、それを筆者は鉄道の「プラットホーム」ととって選句し、解説もした。ところが仲間の一人が「老人ホーム」の意味でも解釈できるのでは、と異議を唱えられた。その句に関しては、確かにそういう解釈も成り立つ。なるほどと思うと同時に、「ことば」の面白さを思った。

 もちろん前後の言葉の関係から、ほとんどの場合正しく伝わるのであるが、中には微妙なケースもあるものである。

 俳句に使う「ことば」に関して、特別に「規則」があるわけではない。その時代、その時代に「無理なく伝わる」言葉として扱えばよいのであろう。

 さて「リード」の句。近年は愛犬家のために、短くすれば一メートルくらいでも、伸ばせば最大十メートルほどにもなるものが売られているようである。上天気の「野遊」。作者の気持ちも晴れ晴れ、そんな主人の意向を察して犬も上機嫌なのである。「伸ばせるだけ伸ばした」「リード」の先の犬の勢いまで見えてくる。(本井 英)

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