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健脚組ここで別るる富士薊  岩本桂子

 季題は「富士薊」。多く富士山麓で見かけることから、この名があるという。普通の薊より葉も大きく棘も硬い。一句のキーワードは「健脚組」。勿論客観的な基準がある訳では無く、全体の中で、比較的脚力、その他体力ありとみなされたグループの仮の呼称といったところ。それでも、たとえば二、三十人のグループが一緒に合宿をしようなどという場合には「健脚組」と「足弱組」に分けて、歩くコースなどを分けることが、結果としては無理が無く、良い結果をもたらす場合が多いようだ。ことに俳句の稽古会などというシチュエーションなどを、考えた場合は、比較的若いグループは途中山道や沢道などのあるコースを望むであろうし、反対にやや老いた人々は、なるべく平坦な散歩道が安心で、好まれるであろう。そんなグループ分けをして置いた一行が、あるポイントにさしかかり、「健脚組」と呼ばれる数名が、一行から別れてやや厳しい道に進んで行くというのである。そんな場所に「富士薊」が咲いていたと詠まれると、山中湖畔の「老柳山荘」付近の溶岩道も目に浮かんでくるような気がした。グループ全体の華やいだ気分が伝わってくる。(本井 英)

雑詠(2023年1月号)

健脚組ここで別るる富士薊		岩本桂子
菜虫とる雫するほど手の濡れて
屈みたるまま一畝の菜虫とる
見下しにちらと湖見え富士薊
小さき庭つまらなさうにとんぼ去る

湯ざめして人形一つ撃ち落とす		近藤和男
プレス屋の夜食国際色豊か		矢沢六平
大年の没りぎはの日の射しきたり	藤永貴之
形見分け終はりし午後や小鳥来る	都築 華

課題句(2022年12月号)

課題句「枯蔦」            岡部健二 選

廃工場覆ひて蔦の枯れてをり		児玉和子
枯蔦やこの家かつて荒物屋

猫墜ちる壁の枯蔦もろともに		井上 基
枯蔦や連絡つかぬ友のこと		小川美津子
枯蔦の生きてをるとも見えぬかな	本井 英
石垣の蔦の枯れたる歴史館		永 豪敏

楢枯に沫雪とまりそめにけり   藤永貴之

 季題は「沫雪」、「雪」の傍題である。同じく「アワユキ」と発音し「淡雪」と記す場合は「春の雪」の傍題となるが、「沫雪」と表記した場合は、「泡のように溶けやすいやわらかな雪」の謂いとなるばかりで、「春」とは限定しがたい。角川『俳句大歳時記』(2006年版)は「沫雪」を春の「淡雪」に統合させているが賛成しかねる。 「楢枯」はカシノナガキクイムシの媒介する「ナラ菌」によってミズナラ等の樹木が枯損する樹木の伝染病。近年特に流行が大規模で、野山の景を一変させている。

 そんな「ナラ枯」の被害にあってすっかり茶色に変色してしまった「楢」の葉に、溶けやすく「あわあわ」した雪が付着し始めた景を詠んだものである。いかにもカラカラに枯れてしまった「枯葉」に「雪」が癒やすようにまつわり始めた景に哀れがある。「沫雪」を春の季題の「淡雪」としてしまうと、一句の「哀れ」の大部分が損なわれてしまう。敢えて「沫雪」を「雪」の傍題とした所以である。(本井 英)

雑詠(2022年12月号)

楢枯に沫雪とまりそめにけり		藤永貴之
柿の秋筑紫次郎を南に
子供等のやうや落葉の駆け回る
剪定の了りたる冬紅葉かな

旭光の燃え広がりて冬の雁		前北かおる
秋水の辷りて迅き魚道かな		青木百舌鳥
三日目の干梅の肩ゆるみたる		梅岡礼子
玉と散りカイ塊を連ねて滝落つる	児玉和子