楢枯に沫雪とまりそめにけり   藤永貴之

 季題は「沫雪」、「雪」の傍題である。同じく「アワユキ」と発音し「淡雪」と記す場合は「春の雪」の傍題となるが、「沫雪」と表記した場合は、「泡のように溶けやすいやわらかな雪」の謂いとなるばかりで、「春」とは限定しがたい。角川『俳句大歳時記』(2006年版)は「沫雪」を春の「淡雪」に統合させているが賛成しかねる。 「楢枯」はカシノナガキクイムシの媒介する「ナラ菌」によってミズナラ等の樹木が枯損する樹木の伝染病。近年特に流行が大規模で、野山の景を一変させている。

 そんな「ナラ枯」の被害にあってすっかり茶色に変色してしまった「楢」の葉に、溶けやすく「あわあわ」した雪が付着し始めた景を詠んだものである。いかにもカラカラに枯れてしまった「枯葉」に「雪」が癒やすようにまつわり始めた景に哀れがある。「沫雪」を春の季題の「淡雪」としてしまうと、一句の「哀れ」の大部分が損なわれてしまう。敢えて「沫雪」を「雪」の傍題とした所以である。(本井 英)

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