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たんぽぽの丈の低 さも浜の宿  山内裕子

 季題は「たんぽぽ」。「鼓草」ともいう。どちらも子供の遊びから生まれた言葉。昔の子供は大人が拵えた「玩具」などとは縁が薄く、その辺の「野っ原」に生えたり、実ったりする草木を「おもちゃ」にしていた。筆者の世代はやや特殊。敗戦の影響で、さらに「玩具」の払底していた時代で、兄や姉の「よき時代」にはあった「玩具」も全く無かった。筆者が大事にしていた「自動車のおもちゃ」は父が使わなくなった「紙巻き煙草を、まく道具」だった。それしか「くるくる廻るもの」が無かったからだ。

 閑話休題。一句の味わい処は「浜の宿」。大切なところは「海の宿」ではない点。「海の宿」なら「海辺の旅館」ほどの意味で、熱海でも白浜でも勝浦でも、つまり「海」に近い「宿」。所謂、老舗旅館・高級旅館なども念頭に浮かんでくる。しかし「浜の宿」と言われると一寸違う。なんとなく砂浜に近い、あるいは砂浜から自然と旅館の庭に通じてしまうような、旅館とも言えるし、民宿のような佇まいも目に浮かぶ。海水浴客を当てにしたような、「気さくな」宿だ。そんな「宿」の砂混じりの、平坦な「庭」に「たんぽぽ」が咲き始めた。まだ閑散として客の姿は見えないが、やがて夏休みにもなれば、子供達の歓声も聞こえてくるのであろう。(本井 英)

雑詠(2024年7月号)

たんぽぽの丈の低さも浜の宿	山内裕子
温室に雨の音聞く椄木かな
生徒の名つけて椄木の鉢並び
一日を草に座りて諸子釣

春泥につなぎたる手を離しけり	飯田美恵子
ギプスより出づる指先春寒し	田中幸子
街路樹の根に捨ててある花氷	藤永貴之
通りますと軽トラ通る春の泥	山口禎子

主宰近詠(2025年1月号)

雪国の殿様   本井 英

お塔婆を書いて並べて万年青の実

雪国の殿様たりき杞陽の忌

円山川文明のこと杞陽の忌

テニスが好きでスキーが好きで杞陽の忌

ディズニーの手前の舟は鯊釣るにや

寒々と鴉罠建つ疎林かな

血の色の烏瓜かな冬に入り

半島や大根畑平らけく

凩が堆肥舎をゆるがせる音

凩に湖面ささくれ立つてをり


本郷に金魚坂あり一葉忌

つはぶきの黄の日向なる日陰なる

原木と呼ばるゝ茶の木花盛り

塔頭のこゝにありきと茶の咲ける

枯蟷螂ゆるるゆるると日表に

枯れ残る眼みどりにいぼむしり

鳰きびしよの如し潜くなく

万両の実のあをあをも良からずや

真葛かな仰がるゝ覗かるゝ

落葉径ほとびわたりて香りけり

主宰近詠(2024年12月号)

混群   本井 英

皀角子の実を(ツノ)となし髥となし

なほしばし古酒をもて嗜みにけり

色鳥や我が見てをるを知つてをり

今朝も来るこの色鳥の名を知らず

ひねもすを脚立乗り降り林檎穫る

群れ鹿や牧のあなたを流れける

釦止めても衿を立てても泠まじや

黄に咲くや鉄道草と蔑まれ

山雀の神籤や固く巻かれたる

山雀の神籤ちりりと鈴も鳴り


仰ぎつつ混群のこと語る人   
        「混群」は「小鳥来る」の傍題としたい。 
木犀の莟そろへて香るなく

神田川をいま天牛が飛んで渡る

ビルの底に首塚はあり秋の暮

銚釐(チロリ)とはそもなつかしや温め酒

ご存命かどうかは知らず温め酒

どつさりと渋柿といふたたずまひ

葛の実や華やかならずあからさま

誅殺の世とてありけり谷戸の秋

十二所の名もゆかしさや里の秋

主宰近詠(2024年11月号)

学習田   本井 英

片陰へすりよつてゆく歩みかな

片陰の幅ひろければ一寸うれし

ひとかけらの午睡木蔭のテラス席

見学の列のかたはら三尺寝

蛭蓆みつしり敷いて学習田

青柿に学生寮はなほ()さず

鉄塔の碍子きらきら秋暑し

蒼然と給水塔や秋暑し

狗尾草の撫でてをるなり力石

螢草萎むや急に雲暗く


人の秋けふの句会に顔見えず

息長く吹く秋風や森の径

風は秋窶すにあらず窶れ歩す

母校なる秋の蚊に待ち設けられ

藷の葉やマルチシートは盛り上がり

老の目に今年の曼珠沙華淡し

爽涼の山小屋風のチャペルにて

落し水遅れてをりぬ学習田

学習田言ひ訳ほどに稔りたり

五つまで仰ぎ数へて通草の実