季題は「たんぽぽ」。「鼓草」ともいう。どちらも子供の遊びから生まれた言葉。昔の子供は大人が拵えた「玩具」などとは縁が薄く、その辺の「野っ原」に生えたり、実ったりする草木を「おもちゃ」にしていた。筆者の世代はやや特殊。敗戦の影響で、さらに「玩具」の払底していた時代で、兄や姉の「よき時代」にはあった「玩具」も全く無かった。筆者が大事にしていた「自動車のおもちゃ」は父が使わなくなった「紙巻き煙草を、まく道具」だった。それしか「くるくる廻るもの」が無かったからだ。
閑話休題。一句の味わい処は「浜の宿」。大切なところは「海の宿」ではない点。「海の宿」なら「海辺の旅館」ほどの意味で、熱海でも白浜でも勝浦でも、つまり「海」に近い「宿」。所謂、老舗旅館・高級旅館なども念頭に浮かんでくる。しかし「浜の宿」と言われると一寸違う。なんとなく砂浜に近い、あるいは砂浜から自然と旅館の庭に通じてしまうような、旅館とも言えるし、民宿のような佇まいも目に浮かぶ。海水浴客を当てにしたような、「気さくな」宿だ。そんな「宿」の砂混じりの、平坦な「庭」に「たんぽぽ」が咲き始めた。まだ閑散として客の姿は見えないが、やがて夏休みにもなれば、子供達の歓声も聞こえてくるのであろう。(本井 英)