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雑詠(2015年8月号)

春潮にはふる纜出港す                梶原一美
行く春や船笛丘に尾を引けり
首すぢに日ざし濃くなる苺狩
日のさせば苺は濃ゆしルビーより

退職の夫とボートに春の宵        原田淳子
門にまだ母の手を振る春の宵       前田なな
竹林に去年の今年の竹の皮        柳沢晶子
隅々まで風に応へて桜かな        梅岡礼子

春潮にはふる纜出港す  梶原一美(2015年8月号)

 季題は「春潮」。春らしい、柔らかな、ゆったりした潮である。「纜」は「ともづな」。本来なら「舳綱」の対立語として船尾に繋ぐ綱のはずであるが、現在では普通の「舫綱」との区別は無い。この句の場合でも船首を繋いでいた舫綱と考えた方が「景」は定まる。それほど大きな船ではあるまい。島へ渡る定期船くらいの船が埠頭を離れようとしている。桟橋の係員が、係船用のビットに潜らせてあったロープの「輪」をビットから抜いて、海へ放り込むと、船はゆっくり後進をかけながら岸壁を離れる。船は「春潮」に浮いている「舫ロープ」をゆっくり巻きとると、今度は大きくカーブを描きながら前進に転ずる。

 そんなどこにでもある景色であるが、丁寧に「景」を描写したことで、青々とした「春潮」と係船ロープの太々とした「輪」、さらには「係船ロープ」を「はふる」動作までが目に浮かぶ。(本井 英)

主宰近詠(2015年8月号)


風つよければ      本井英

裄すこし短くネルを快闊に

ネルを著て胸ゆたかとは申されず

包めるは河北新報蕗の束

煮方やら土のせゐやら蕗やはらか

からび果て藤の落花とからうじて



尖端はすつかり黄色麦の禾

大麦や彼方を過ぐる土埃

つばくらめ風つよければ勁く飛ぶ

辺津宮の甍が嵌まり島若葉

芍薬の蕾に案の如く蟻



薔薇の名となりてより幸薄き生

漁協売店筍を積みて売る

松蟬に声の潮の空に充つ

夏帽を押さへるときの肘真白

幼子をひつかかへたり蜂来しと



涼風に身の透けてゆくおもひかな

(ボウ)かるく当てて奏でて牛蛙

その先は木下闇へと径ほそり

立葵まんなかの高さから咲く

浅間まで森がたくさん夏燕

「夏潮」8月号所収「白金の森で『アサギマダラ』が誕生」(柳沢木菟)

 皆さんはアサギマダラという蝶をご存知であろうか。日本の国蝶候補ともなる美しさとともに、長距離の渡り・北海道や本州と南西諸島、台湾を行き来し、南で繁殖をするという稀有な蝶である。そのアサギマダラが東京は港区の白金台にある自然教育園で誕生する過程を垣間見たので誌面を借りて紹介しておこう。  
写真1. 羽化間もない雌蝶 今までいた蛹の小さいこと

プロローグ― 話の始まりは一月二十一日、自然教育園を吟行中の妻から家の私にアサギマダラの幼虫の写メが届いたこ%

白金の森で「アサギマダラ」が誕生 柳沢木菟

 「夏潮」八月号に『白金の森で「アサギマダラ」が誕生』という拙稿をのせたが、添付の写真が小さくモノクロであるので、「夏潮」ホームページでカラーで見ていただけるよう何枚か用意した。本文と合わせお楽しみいただければと思う。

  1. 最初に見つけた幼虫。《100番》と呼んでいるもの。十一月初めに孵化したと思われる。(一月下旬撮影)

  2. 《100番》の二番目の幼虫。最初のものから一週間後に同じキジョラン(鬼女蘭)の叢の中にいた 。

  3. 二月の末に《100番》とは離れたところで、葉に幼虫の影があることに気付いた。苦労して裏側を撮影。この幼虫は羽化するまでを確認できた。《武蔵野》と呼んでいるもの。

  4. 《武蔵野》は葉の裏にいて姿が確認できない日々が続いたが、四月になって蛹になっているところを確認。全身緑一色だが日が経ってくると翅の模様が透けて見えてくる。

  5. 羽化前日の蛹の様子。成虫の翅の茶の色が一気に殻の下に現れてくる。朝一〇時と一六時とでは色が全く変わっている。

  6. 四月二八日早朝、白金の森にアサギマダラの誕生。翅にエネルギーが回るのじっと待っている。敵に襲われるかもしれない危険な時間帯。雌の蝶である。

  7. 同じころ、6.の奥数メートルのところに羽化後のもう一頭を発見。幼虫の存在も知らず全くノーマークだったもの。こちらは雄。

  8. 羽化三週間後、ヤマボウシの花に来ているところ。自然教育園内ではアサギマダラの目撃情報はあったが、これは存在を確認する決定的な写真である。《武蔵野》の雌と思われる。