主宰近詠(2017年6月号)


沼いくつ    本井 英

くまぐまに雪ありながら春子かな

春水がレンズのやうに湧くところ

海の幸盛りたる笊も雛調度

犬筥の犬の器量に佳きわろき

雛調度なれば具足も可愛ゆらし




キスチョコのやうな蕾を木苺は

帰る鳥の眼下を過ぐる沼いくつ

ところどころぬかるんでゐる苗木市

七味屋の屋台も出たる苗木市

はくれんの弛むたちどころに(ホグ)




仏の座かたまり咲けばその色に

はこべらに(テノヒラ)かぶせやはらかし

一木を剪定したる枝の山

大寺の沙弥ののどかの受け応へ

卒業の日の「おはよう」を交はし合ひ




西行忌老ゆればさらに心なき

猫車(ネ コ)通す小板渡して水温む

蕗の花長けたりうすら汚れたり

置き去りの鍬にさらさら春の雨

雨を来る人々に焚く春煖炉
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