主宰近詠(2015年9月号)

掌ほどを   本井英

万緑は丘のかたちを野のかたちを

水がゆきわたりすなはち代田なす

麦のころほひかぶら川からす川

浅間嶺におつかぶさつて雲の峰

つばくろの行方を読めばはぐらかす



桑の実の色のさまざま黒もちよと

突き上ぐる大噴水や北の街

噴水の最高点に幾かけら

籘椅子に外湯めぐりの子等を待ち

籘椅子にはだけて薄き老の胸



籘椅子に叱られをれば庭を猫

軍港に敷きのべにけり青葉潮

青葉潮艦首に菊の御紋無く

黒出目金とは仲良しにまだなれぬ

腕章を巻き蚊遣香腰に提げ



庭を出て野に遊ぶ猫梅雨晴間

木下闇をしばらく潜り村の川

花合歓の紅の刷毛先ぽちつと黄

ほととぎす峰高きより宣り出だし

まひまひの掌ほどを舞ひ止まず