掌ほどを 本井英
万緑は丘のかたちを野のかたちを 水がゆきわたりすなはち代田なす 麦のころほひかぶら川からす川 浅間嶺におつかぶさつて雲の峰 つばくろの行方を読めばはぐらかす
桑の実の色のさまざま黒もちよと 突き上ぐる大噴水や北の街 噴水の最高点に幾かけら 籘椅子に外湯めぐりの子等を待ち 籘椅子にはだけて薄き老の胸
籘椅子に叱られをれば庭を猫 軍港に敷きのべにけり青葉潮 青葉潮艦首に菊の御紋無く 黒出目金とは仲良しにまだなれぬ 腕章を巻き蚊遣香腰に提げ
庭を出て野に遊ぶ猫梅雨晴間 木下闇をしばらく潜り村の川 花合歓の紅の刷毛先ぽちつと黄 ほととぎす峰高きより宣り出だし まひまひの掌ほどを舞ひ止まず