主宰近詠(2014年8月号)


薔薇が邪魔 本井 英

たかんなを両断すれば楽器めく

五月鯉ピエタの如く抱き降ろし

畳むほどに空気を吐かせ五月鯉

ポストからとり出すときに薔薇が邪魔

茶畝なる腰の深さの狭間かな



とめどなく横転げして竹落葉

河骨の蕾にできし孔深し

盆栽の棚の裾辺の鴨足草

葭原に榛が生ひそめ葭雀

葭原の先の一 本花楝



風波に覆へるあり菱若葉

青蘆に屋根の見ゆるが観察舎

青鷺の嘴の突貫せる刹那

漁師町の空き家がちなる紫蘭かな

釣り糸と海月とつひに関はらず



閘室のみる〳〵深し夏燕

萩若葉長けて砦ぞなせりける

虫喰ひが池塘のやうや丸葉蕗

すつぽんもゐたはず蒲のよく戦ぎ

十薬の一弁がまだ花序抱く