さらに黄に 本井 英
春時雨湖東の町は濡れわたり 島の第一夜虫出とどろきて 虫出や湯壺は川の高さなる 車庫裏で出くはしたるは雉の夫 棒一本突き立ててある蝌蚪の紐
初蝶のことを告げたく歩を早む 一昨日の初蝶よりもさらに黄に 灯台へ行く馬の背の風椿 惨劇のごと山頂の落椿 湯ヶ島より湯ヶ野恋しや菫草
三角草咲くには咲きてやや小さし ほぐれ出て花咲かんずる青木かな はくれんや弛みはじめて綻びず 春蘭に梅ちりさらに蘂がちり 呑みあふれたる春水に耳濡らす
剪定を待ちかねてをる梨の棚 藪巻を解かれて風をよろこぶよ 紅梅の蘂の流星群のやう 閉ぢてゐて瞼の甘き朝寝かな 針桐の針の間 の芽吹きかな