主宰近詠(2013年6月号)


さらに黄に  本井 英

春時雨湖東の町は濡れわたり

島の第一夜虫出とどろきて

虫出や湯壺は川の高さなる

車庫裏で出くはしたるは雉の夫

棒一本突き立ててある蝌蚪の紐



初蝶のことを告げたく歩を早む

一昨日の初蝶よりもさらに黄に

灯台へ行く馬の背の風椿

惨劇のごと山頂の落椿

湯ヶ島より湯ヶ野恋しや菫草



三角草咲くには咲きてやや小さし

ほぐれ出て花咲かんずる青木かな

はくれんや弛みはじめて綻びず

春蘭に梅ちりさらに蘂がちり

呑みあふれたる春水に耳濡らす



剪定を待ちかねてをる梨の棚

藪巻を解かれて風をよろこぶよ

紅梅の蘂の流星群のやう

閉ぢてゐて瞼の甘き朝寝かな

針桐の針の(ハザマ)の芽吹きかな