主宰近詠(2013年4月号)


六  花(ムツノハナ)    本井 英

橋あれば島へも行かな恵方なる

扁額の鳩が八なす初詣

餅花に肩が触れては揺るるかな

ややありて羽子板とりに戻りきし

台所終へて妻来る歌留多かな


鼠引くやうにかたみに切山椒

猿曳と猿とおんなじ紋所

冬帽を売るや鏡に空映り

寒釣より戻りて独り風呂沸かす

渓道をとれる下山や冬苺

Mさんの転勤に

天竺へ発つ餞の六  花(ムツノハナ)

停車駅ではゆつくりと降れる雪

寒晴の鳶と浮かべる我が心

雪折を剪りてはありて片付けず

雪折のやうに死ぬるは痛からん



火事の火が数秒よぎる車窓かな

青空に吊り上げらるる凍死かな

寒の宮末社三つ四つみな狐

咲ききりて盆梅所在なかりけり

磯海苔を摘むと連れだち島女