花鳥諷詠ドリル ‐主宰の句評‐ 第30回 (平成17年6月10日 席題 苺・虎が雨)

虎が雨墨絵のごとく松の影
さっきのインターネットが(広重 大磯宿 虎が雨の版画)、そのまま句になるようで、たいしたもんですね。「松の影」という言い方が、おぼめかしてあって、いいですね。Shadow ではないんですよ。松の形なんだけれども、形として充分把握できないから、輪郭のようなものが影として見えてをる。ということで、「影」という言い方はなかったなと思って、感心をいたしました。
靴の中に砂の入りたる薄暑かな
こういう句は、うまいですね。初夏の暑さを薄暑と言いますが、どこを通ったかわかりません。海岸地帯を通ったのか、ほかの所を通ったのか、わかりませんが、靴の中がじゃりじゃりした砂っぽい感じがしているということです。女の人の句ということも、わかりますね。
対岸へ渡る橋なく行々子
行々子は葭雀。「ギョギョシ。ギョギョシ。」っていうやつですね。葭切とも言います。大きい葦の真ん中辺りに、横様に止まって、虫を採ったりしますが、正式には大葭切という名前です。いかにも、どこか大きな川の河口、利根川とかの大きな河口の葦原あたりを感じさせます。あるいは手賀沼とか、細長い沼でもかまいませんね。ともかく対岸というのですから、細長い川か沼か、どちらかだろうというふうに思います。渡る橋なんですからね。諏訪湖みたいに丸いところに橋をかけても無駄ですからね。細長いんでしょうね。
魚簗籠(やなかご)に瑠璃虎尾草の活けてあり
魚簗籠、簗って竹で編んでありますから、簗のような意匠の竹で編んだ籠、花籠なんでしょうね。そういうつもりで、僕は採りました。魚簗籠というものがあって、そこに虎尾草が活けてある。それが瑠璃色の瑠璃虎尾草であった。というので、静かなお茶室とも違うんだけど、お座敷の静かな床の間に、そんなものがあるのかなという気がいたしました。
大ぶりの罌粟咲き揃ひ風を呼ぶ
この句の眼目は、「風を呼ぶ」という下五ですね。大ぶりな罌粟が薄くてひらひらとしたのがわっと咲いて、それを見ていて、ほかのものには感じないんだけれども、花びらだけが揺れて見える。それを、「風を呼ぶ」という言い方は巧みだと思います。

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