主宰近詠(2012年2月号)


くらりとす           本井英

京極杞陽三十年忌の旅 八句

いつの間に単線となり蔦紅葉

三丹は豊かにさびし柿を干し

心組み来たりしままに時雨をり

逆波の円山川ぞ時雨るれば

一舟を舫ひて菊に棲めるかな




行李柳枯るるにつけて偲ぶなり

ふるき湯にふるき佳き宿冬紅葉

息白く朝の外湯へ町の人



河のごと狭められても鯊の潮

沼蹴つてゆく凩の足裏かな

顔見世の昼の日中の玄冶店

なまぬるき雨が注ぐよ都鳥

客寄せに据ゑて鮪の大兜



巫女ふたり雨の無聊の神無月

その奧の実にも日当たりさねかづら

榛の実の沈みて黒き冬の水

攫はんとすれば大綿くらりとす

冬菊の黄の濃く臙脂さらに濃く



鵯がくつろぎの声零すとき

ほの揺れて隠れ磯とは椿の名