くらりとす 本井英
京極杞陽三十年忌の旅 八句
いつの間に単線となり蔦紅葉
三丹は豊かにさびし柿を干し
心組み来たりしままに時雨をり
逆波の円山川ぞ時雨るれば
一舟を舫ひて菊に棲めるかな
行李柳枯るるにつけて偲ぶなり
ふるき湯にふるき佳き宿冬紅葉
息白く朝の外湯へ町の人
河のごと狭められても鯊の潮
沼蹴つてゆく凩の足裏かな
顔見世の昼の日中の玄冶店
なまぬるき雨が注ぐよ都鳥
客寄せに据ゑて鮪の大兜
巫女ふたり雨の無聊の神無月
その奧の実にも日当たりさねかづら
榛の実の沈みて黒き冬の水
攫はんとすれば大綿くらりとす
冬菊の黄の濃く臙脂さらに濃く
鵯がくつろぎの声零すとき
ほの揺れて隠れ磯とは椿の名