佳田翡翠さんの第二句集。氏は昭和二十年岡山県生まれ。「ホトドギス」「松の花」に所属。「木挽町」30句で平成二十二年日本伝統俳句協会賞を受賞。日本伝統俳句協会千葉部会の会長を勤められた。
日本伝統俳句協会で活躍されているらしい、肩の力を張ることの無い自然な詠いっぷりが句集を読み進めていくにあたり心地よい。純粋な写生句にも結構な句は多くあるが、写生を通じて情が零れてくるような句の方により興味を持った。
句集中には旅吟や芝居を題材とした固有名詞を用いた句が目に付いた。これらについては、省略した方がよいと思われる句が散見された。固有名詞を強調し過ぎることで、本来花鳥諷詠で持つべき「季題」に対する愛情、興味が薄れてしまっているような感じがし、損をしているように思えた。
・菜の花の上に海その上に空 翡翠
季題は「菜の花」。菜の花が咲く頃のまだ冷たくどんよりとした海と空の様子が良く分る。一番下にある菜の花の色だけが妙に明るい。
句集の中で数少ない句跨りの句だが、リズムが俳句の内容を表すのに効果的な役割を果たしている。
・どこまでも富士ついてくる枯木山 翡翠
季題は「枯木山」。枯木山を登ってみたところ、富士がくっきり見えている。その枯木の山の尾根を歩きつつ振り返り見るとしっかり富士がそこに見えている。富士はすっかり雪富士になっているのだろう。その富士がいつまでたっても同じ大きさで見えている。それを中七のように詠みあげた。富士に見守られているような不思議な感覚で、山道を進んでいく。実感が良く伝わる一句。
以下、その他印をつけた句を各章毎に紹介する。
「木挽町」より
新橋の妓もちらほらと小正月
幕間の桟敷へ届く鰻飯
「新年」より
龍の字の動きだしたる吉書かな
勝ち独楽のぐらりと揺れて止まりけり
「春」より
くちびるにふふめば甘し春の雨
西行庵まで春泥の谷づたひ
三陸の海そこにある春の闇
宮城野のなゐの大地に芽ぐむもの
ふらここや昨日の雨をふりこぼし
「夏」より
今年またマッカーサーのサングラス
雑魚舟のもどつて来たる梅雨の岸
夏袴都大路を渡るかな
白服にナイルの風をはらませて
「秋」より
階下より夫の声する十三夜
徒で越ゆ峠の茶屋のぬかご飯
街角の回転木馬小鳥来る
韃靼の地平に沈む秋夕日
秋風や哈爾浜(ハルビン)と呟いてみる
ふるさとは高志(こし)のまほろば銀河濃し
「冬」より
本殿の大屋根高し節分会
(杉原 祐之記)
俳諧師前北かおる
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紀伊国屋書店HP
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