花鳥諷詠心得帖8 一、用意の品 -8- 「ムシガード、ホカロン、お酒、携帯電話」

話柄がうろうろ前後して恐縮だが、「用意の品」の続き。
前回「服装」の条で述べたごとく、「季題」と巡り合って、「季題」と語り合う時、花鳥諷詠詩人は集中力と持続力が要求される。その集中力を下げる要因は幾つかあるが、夏場の、筆者の場合は「蚊」。これが実は大敵で蚊に喰われると、痒くて痒くて、途端に集中力が切れてしまう。

筆者の場合その「痒さ」は数日継続して日常生活を乱す。蚊は蚊でそんな筆者が大好きらしく、一番に筆者を襲う。筆者のように日頃アルコールを好む者は、肌から炭酸ガスをより多く放出するために、蚊が寄って来るのだと、どこかで聞いたこともある。そこで「虫除け」が夏場の必須アイテムとなるのだが、草取りではないのだから、蚊遣香を腰からぶら下げて吟行するのも不便極まりない。ここ数年はスプレー式の「虫除け」が流行って、「緑」の中に踏み込む直前に「シューッ」やったものだが、近時「すぐれもの」に出会って、専ら愛用している。それは「ムシガード」なる製品。

某製薬会社が発売しているウエットティッシュタイプの「虫除け」で湿った紙切れで首筋、額、腕などを拭うだけで絶対蚊に襲われない。スプレータイプと違って顔にも使える点が感動的だ。この夏、去年の残りがあったので使ってみたら十分に効果が残っていて再び感動した次第。

ところで冬場の大敵は「寒さ」。こちらは厚着をすれば済むようなものだが、何と言っても「ホカロン」が強い味方だ。近年は着物の上から貼り付けるタイプも開発され、それを腰のあたりに貼れば余程の寒さでも気を散らさずに「季題」と向き合っていられる。氷柱でも雪崩でも流氷でもやって来いだ。

そう言えば、かつて若かった頃は「お酒」の助けを借りて寒さに対するのが「文学」っぽくて、
似つかわしいように思っていたし、実際よく呑んだ。先輩俳人の中にもそんな方が何人もおられて、吟行が終わると今度は本格的に呑むのだった。しかし幾人かは、その「お酒」がもとで早くに鬼籍に入られた。

最後に近年流行の持ち物の代表、携帯電話。吟行会で迷ってしまったり、句会場が判らなくなったりしたときに、幹事さんに連絡がとれるのは安心この上ない。勿論家に病人やお年寄り、或いは小さな子供がいて、外出が憚られる時も、「携帯」があれば安心していられる。
一方、静粛を要求される場面で、ふいに鳴り出すのは矢張り困ったものだ。近年の劇場などは「携帯」が掛からないようなバリアがかけてあって有難いが、普通の句会場はそんな設備はない。そこで俳句会が始まったら、「マナーモード」にしておくのが「マナー」。病人の様態などの連絡が入ったら、静かに立ち上がって、廊下で「携帯」を使用する位の配慮があって良い。まあ、出始めの新機械で、使用する側が不慣れなための問題ではあり、数年以内には心配無くなるのだろう。