鶏にパッと点りし一戸かな 藤永貴之

 季題は「初鶏」。『虚子編新歳時記』の解説は「元日、黎明に聞く鶏鳴である。」と素っ気ない。この「素っ気なさ」の背景にあるのは、「鶏鳴」が「時」を知らせるという古代からの生活感が、昭和の初年には未だ人々に共有されていたからである。現代のように人口の殆どが都市生活者に数えられる時代となると、「鶏鳴」イコール「時刻の目安」という時代感覚と、人々の暮らしから解き明かさなければならなくなる。例えば筆者が育った戦争直後の鎌倉などでは、未だ「鶏」を飼う家もあって、東の空が白む時刻には、必ず「コケコッコー」が聞こえたものであった。そんな時代に思いを馳せて一句を味わうと景がありありと浮かび上がってくる。さらには如何にも待ちかねた「元朝」を迎えた人々の心の内までが。(本井 英)

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