季題は「沙羅の花」。「夏椿の花」である。木肌の滑らかな高木で、椿に似た、単弁の一日花をつける。インドの沙羅双樹とは全くの別種である。白い「一日花」を毎日降らすので、木の辺には毎日落花の「白」が降りたまって印象的である。作者はその「降りたまる」風情を楽しもうと、「掃かない」で欲しいと願っているのである。表現としては、中七を「掃かずにほしい」でも「掃いてくれるな」でも、作者の心持ちは通じるが、「掃くこと勿れ」とやや古風に表現したところに、「沙羅の花」の風格が見えてきて、好ましい句となった。「勿れ」は「なくあれ」の約だが、「君死にたまふこと勿れ」などの詩句も思い出される。直接、誰かに発せられた言葉ではないが、虚子の言う「存問」の句で、俳句という文芸の至り着いた境地と言える。(本井 英)
しばらくは掃くこと勿れ沙羅の花 根岸美紀子
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